今回は C Magazine のコラムでお馴染み、川畑さんたっての希望で実現した「錦城護謨株式会社」さまへの取材。 左半身に麻痺があり、歩行障害を抱えるC Magazine 編集部の川畑さんと、現役の理学療法士でもある C Magazine 編集長の重國が、視覚障害者用歩行誘導マット「歩導くんガイドウェイ」の開発背景など、代表取締役社長の太田さんにインタビューさせていただきました。
視覚障害者歩行誘導ソフトマット ガイドウェイについての詳細はこちら
川畑)私は学生時にサッカーをやっていて脳震盪で倒れ、その際脳に腫瘍が見つかりました。位置が中央とのことで処置ができず、症状もなかったことから経過観察になったのですが、 8 年前から左半身に麻痺の症状があらわれ、MRI を撮ったところ腫瘍が 3cm に膨れ上がっ ていました。一番影響があるのは左足で、路面の違いで足が硬直してしまい、段差はもちろん「点字ブロック」の上をあるくだけでも痛みを伴うような状態です。 そんな中、知人から「歩導くんガイドウェイ」の存在をおしえてもらい、強く興味を持ち展示会を訪ねたのが今回取材させていただくことになった経緯です。
編集長)なぜゴム製品の製造事業から介護福祉事業を?
太田) 私たちはゴム製品の製造・開発と、そこから派生した土木事業を行っています。会社の将来を考える中で、「新しい柱」をつくれないか、との思いからはじまったのが介護福祉事業です。先の未来を考えた時に、「高齢化社会」「災害」「防災」「健康」「環境問題」といった課題が浮かび、社会的なテーマに関わることを事業として取り組んでいきたい、と。その中で土木事業のお客様からご紹介いただいたのが「歩導くん」を考案された方で、当初は販売支援という形での関わりでした。 それまで「点字ブロック」に対して一般的な理解しかありませんでしたが、話を聞く中でさまざまな課題を抱えていることを知り、私たちの製造技術や土木事業をきっかけに広げてきた公共機関等との繋がりが生かせるのではないか、と考えました。
太田) ある日、「歩導くん」を導入いただいた金融機関から電話で全店撤去の連絡がありました。忘れもしない、クリスマス間近。お話を伺うと、想定以上の通行量によって製品の汚れや剥がれなど、安全性の問題から設置を続けるのは難しい、との理由でした。 謝罪した後、1年間の改良期間をお願いしました。それならばといただいた猶予はたった半年。通常の「ものづくり」では考えられない期間です、、、。 この件をきっかけに、本格的に製造へも取り組むことになったわけですが、サンプルをつくる時間さえない状況です。高コストな金型を同時並行で作ってはテストを繰り返し、可能な限りの人的リソースと費用を投入して誕生したのが「歩導くんガイドウェイ」です。当初の課題解決はもちろん、設置先の空間への意匠性も考慮し、アップデートした製品です。 実際に現場で設置してみないと見えてこない課題もたくさんあり、その後もマイナーチェンジを繰り返し、現在販売している製品はバージョン 5 です。
太田) はじめた当初、もっと簡単にこの製品が広がると考えていました。視覚障害者の方々が安心して移動できる空間づくりを目指すのが自分たちの役目であり、そのためには「歩導くんガイドウェイ」の普及が必要である、と。ただ、とても保守的な業界も多く、「前例がないから導入できない」という理由で断られることもあり、簡単にはいきませんでした。0から1を生み出す難しさですね。 実際、視覚障害者からすると、点字ブロックがあれば十分との意見もあります。ただ、視覚障害者の方にとってバリアの解消となる点字ブロックが、車椅子の方やベビーカー、歩行障害を抱えている方にとっては別のバリアになってしまうこともあります。
編)私は総合病院での勤務経験がありますが、院内は車輪をつかうものがたくさんあります。車椅子だけでなくベッドやストレッチャー、点滴台や食事を運ぶ配膳台など。そのような環境 でもこの製品はみんながハッピーになる製品だと思いました。
太田) 「歩導くんガイドウェイ」は機能的に優位性があり、病院や公共施設における課題解決もできていると思います。ただし、視覚障害者の方にはわかりやすさの面で若干歩み寄ってもらう必要があります。 また、誘導マットが点字ブロックより優れているとは思っていません。TPO に合わせた使い分けが重要です。
太田) 私たちがやっていることはマインドチェンジだと思っています。社会もマインドチェンジが必要です。バリアフリーを唱え、ただ点字ブロックを設置すれば良いわけではありません。だれもが安心して移動でき、誘導できる空間をつくることが重要です。そのためのひとつの手段が、この製品をつかってみんなが共存できる「インクルーシブな空間づくり」です。世の中に「安心できる空間」が増え、「バリアになる空間」が減ること、自分たちがあきらめずにやった分だけ、地図の上に点を打った数だけ「日本がやさしくなる」という思いで続けています。すぐに変われなくても、正しい価値を伝えて意識を変えてもらえるまで言い続ける、やり続ける。そのための一つの手段が、この製品をつかってみんなが共存できる空間をつくることだと思います。
だれのためのバリアフリー?
編)先程、誰かにとってのバリア解消が新たなバリアを生む可能性が、とのお話がありましたが、正にそのとおりだと思います。 「バリアフリー」とひと言でいっても、「健常者と視覚障害者間のバリアフリー」「健常者と車椅子ユーザー間のバリアフリー」だけでなく、「障害者間のバリアフリー」も存在することが、この製品から学ぶことができた気がします。 実際、川畑さんは「点字ブロック」の上を歩く際にどのような問題を抱えていますか?
川)私は既存の「点字ブロック」の上を歩くとき、左足の親指にギュッと力が入ってしまい、目線がずれて、同時に強い痛みを感じます。はじめて杉並区役所に設置されているこの製品を体感したときの感動は忘れることができません。
編)おそらく足の裏に刺激が強く入ると、それによって力が入ってしまうのだと思います。脳梗塞などで片麻痺になった方などにも見られ、足の裏の刺激によって「原始反射」という本来私たちには出ない反射が出てしまう症状が考えられます。 このような方にとって、足の裏から伝わる刺激が原因で歩きにくさが増してしまう、ということはあると思います。 「視覚障害者の方にも歩み寄ってもらう必要がある」とのお話がありましたが、正にこういうことではないでしょうか。駅などで「黄色い線の内側でお待ちください」と言われますが、そうなると歩行障害の方や車椅子の方は点字ブロック上が通路にならざるを得ません。凸凹していたり、すぐ下が線路だったり危険も伴い、公共施設などでの難しさを感じます。
太田)今までは、「点字ブロック」があるかないか、の選択肢しかありませんでした。その「思考停止」している現状に新たな選択肢を提示したのがこの製品だと思います。 大切なのは、「だれがどう使うか」「それならどうあるべきか」を考えることです。
川)実際に私が見た場所でも「ガイドウェイ」が設置してあるすぐ後ろに椅子が設置されていました。もしだれかがここに座っていた場合、視覚障害者の方はガイドに沿って進むことができず、それによって座っている側も双方嫌な気持ちになってしまうだろうな、と。「作り手側の思い」と「設置する側の考え」の不一致を感じました。「ガイドウェイ」を設置するだけで満足してしまっている、とでも言いますか。これは「ガイドウェイ」に限ったことではないと思いますが。
編)おそらく、設置した当初はそこに椅子は存在せず、時間が経つ中で高齢者の施設利用も多く、座る場所の確保など、都度他の要因との兼ね合いで本来の趣旨とは違った方向にいってしまったのかなと思います。
川)展示会の時にコンテンツ制作などを担当されているYさんとお話をさせていただき、製品への愛情の深さを感じました。
太田)自分たちはメーカーだから、DNA の源泉は「ものづくり」にあります。その根幹があったから、既存製品の課題を解消して半年で改良版をつくろう、というマインドになったのだと思います。 本来、「ものづくり」というのは進化をつづけてアップデートしていくのが当たり前で、「点字ブロック」にもそれが必要だったのではないでしょうか。 「ウォシュレット」の例がわかりやすいです。最初は特定の病気を患っている人向けに開発された製品が、特定の方のバリアを解消することで一般の人の価値にもつながりここまで普及しました。「ガイドウェイ」は視覚障害の方だけでなく、印刷を加えてサインとして床に敷くことで目線の低い車椅子利用者の誘導にも役立ち、一般の方にも導線としての利便性が高まります。 「この人のためだけ」というものはなかなか広がりません。だれもが我慢せず、お互いを尊重できる社会、それこそが「インクルーシブ」といえるのではないでしょうか。
編)人を適切な場所へ誘導するため、視覚障害者からスタートしつつもそこに収まらない可能性を秘めた製品ということですね。
太田)ただ誘導するだけではなく、みんなが共存し外の世界に接続しやすい社会、それは「みんなにやさしい」「誰もが我慢しない」社会だと思います。そのためにも歩行インフラをつかって「安心して移動できる・誘導できる空間」をつくる。簡単なことではなく、苦労は ing(現在進行形)ですが、やった分だけ世の中はやさしくなっていくと信じて続けていきます。
編集長の感想
今回は C Magazine 編集部企画。コラムニストの川畑さんの困り事、「歩行障害と点字ブロック」を起点にして錦城護謨株式会社さまへの取材が実現しました。 「ものづくり」という実績と誇り。そしてその強みをいかに現代社会の課題解消へと繋げていけるか。これは、一企業としてだけでなく、個人と社会との接点を考える上でも必要な考え方だな、と感じました。 また、「前例がない、という壁」は障害者を取り巻く環境だけでなく、現在の日本のあらゆる業界、職場でも聞かれています。その点において、メディアとしての役割を再認識することができました。 まだ世の中に広まってはいないけれども、人や環境に優しい、物やデザイン、考え方など。これからもたくさん見つけて、C Magazine で発信していきたいと思います。
川畑の感想
ガイドウェイに出会うことができた感動を、お礼を製作者に伝えたい。そんな想いで臨んだ、「C」マガジン初のインタビュー。 終始緊張が止まらなかったが、世の中が止まることなく、動いていることを実感した。 誘導の幅が広がっている。 詳しくは、「麻痺と一緒に」次回のコラムにて
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