医新会 長瀞の医療と介護を支える横山兄弟

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大量離職からのV字回復 「スタッフとその家族も守る」医師と理学療法士の兄弟が経営再建に挑む 

連載:編集部インタビュー
Oct 23, 2024

介護スタッフの人材不足は深刻な社会問題となっており、介護事業者の倒産は過去最多となっています。

このような状況の中、創業者の突然の他界に伴うスタッフの大量離職からV字回復を実現した施設がありました。

自然豊かな埼玉県秩父郡長瀞で理学療法士と医師の兄弟がどのようにして経営再建をはたしたのか。

お話を伺いました。

医新会 理事長 横山 央さん(左) 事務局長 横山 秀則さん(右)

約束の時間に伺うと、よく似たお二人がお出迎えしてくれました。

医療法人社団 医新会 理事長の横山 央(よこやま まどか)さん(以下 央 理事長)と事務局長の横山 秀則(よこやま ひでのり)さん(以下 秀則 事務局長)です。

重国)本日は、よろしくお願い致します!簡単に自己紹介をお願いします。

央 理事長)私が弟の横山 央です。総合診療内科の医師で医新会の理事長をしています。

秀則 事務局長)兄の秀則です。理学療法士で、今は医新会の常務理事 兼 事務局長をしています。

重国)お二人、ご兄弟ということですが、よく似ていますね!笑

秀則 事務局長)はい。笑 スタッフにも間違われることがあります。

重国)笑顔やたたずまいもそっくりです!まずは医新会がどのような施設で構成されているか教えて下さい。

央 理事長)長瀞には、長瀞医新クリニックと併設されている介護老人保健施設(以下 老健) 縄文の里 長瀞倶楽部があります。クリニックに19床、老健は81床あります。

縄文の里 長瀞倶楽部(中央から左部分)と長瀞医新クリニック(右部分)

央 理事長)そして、ここから歩いて5分くらいのところに、サービス付き高齢者住宅 彩花のさと 長瀞があります。

サービス付き高齢者住宅 彩花のさと 長瀞

 

央 理事長)さらに東京には2つの院所があり、板橋区大山に医新クリニック、千代田区の神田駅近くに神田医新クリニックがあります。

創業者の突然の他界

重国)現在、この医新会を、兄弟お二人が中心となって経営、運営しているということで、もし差し支えなければ、経緯を教えて下さい。

央 理事長)2021年5月21日に創業者である父が突然、亡くなりました。私の誕生日の前日でしたので、はっきり覚えています。コロナ禍の誕生日ということで、自宅に食材を買い込んでいたのですが、それを次の日に悲しい気持ちで食べたことを覚えています。あの日以来、もうこれは二人でやるしかない、ということでこの体制になっています。

秀則 事務局長)父が亡くなる前から、私は理学療法業務をしながら老健の事務員としても働いていました。弟が医師なので、医学に関わる部分の判断は弟にしかできないところもあります。ですので、理事長が弟で私が事務局長としてサポートするのが自然と決まりました。

スタッフの離職があとを経たない状況だった

重国)3年前の当時、一番大変だったことは何だったでしょうか?

秀則 事務局長)2021年の年末にかけてスタッフが大勢、離職したことです。スタッフがいなければ、利用者さんの受け入れもできなくなりますから、経営状態は悪化します。

重国)主な離職の理由は?

秀則 事務局長)良くも悪くも父が作り上げてきた組織ですから、新体制になり不安を感じさせてしまった部分もあったと思います。また、各部署とヒアリングを重ねて、人事配置の適正化も進めましたので、その辺りも関係していると思います。

理念はシンプル「目の前に困っている人がいたら助ける」

重国)理事長にお伺いします。お父様の後を継いで、まず医師としてとして一番意識されたことはどのようなことでしょうか?

央 理事長)医師としては、シンプルに目の前に困っている人がいたら助ける、ということです。これは、父が亡くなる前からの私の医師としてのポリシーでした。地域の方が困っていることの原因は病気や怪我だけとは限りません。老老介護でご家族の体調やお世話に困っていたり、介護してくれている家族に申し訳なく思う気持ちが強かったり。利用者さんとご家族、ケアマネージャー、介護スタッフやリハビリスタッフなどと通称リハビリ会議というのが開催されますが、そういう時には、

「ご家族も含めて、何かあったら我々が診ますから安心して下さい。」

と伝えることがあります。

やっぱり、義理と人情が大切で、地域に必要な医療、介護というのは常に繋がっている、一人で困りごとを抱えさせないということだと思っています。

「すぐに会える理事長」を目指して

 重国)それでは今度は理事長という立場になられて一番意識されたことは何ですか?

央 理事長)とにかく各部署を回って、たくさん話を聞きました。「すぐに会える理事長」という感じで笑

父は一代でここまでつくり上げてきた人ですから、ある種のカリスマ性のようなものがあったのだと思います。それは事業をつくり上げて拡大するには必要なのだと思いますが、近づきにくい存在になっていたような気もします。理事長となってあらためてスタッフから話を聞いてみると、今まで明らかになっていなかった問題が山積していました。それは、「人」が原因である場合もありましたし、「システム」が原因であることもありました。それを一つ一つクリアしてきて、3年が経ちました。スタッフの入れ替わりはありましたが、これは、いい意味で代謝したとも言えます。確実に以前よりも風通しの良い組織になったと思います。

 

とにかく正攻法で人材確保

 重国)それでは今度は事務局長にお伺いします。事務局長となられて最も取り組まれた点は何ですか?

秀則 事務局長)一番は人材確保です。やはり、医療、介護の仕事は人材が本丸。しかし、人材確保に資金をかけすぎてしまうとそれが経営を圧迫してしまいます。なので、正攻法でハローワークをとにかく有効活用しました。都市部ですと人材派遣業者さんなどを利用して求人を行うのかも知れませんが、地方ですとハローワークが人材確保の軸になると考えています。

重国)ハローワークを有効活用するためのコツなどはあるのでしょうか?

秀則 事務局長)条件面や待遇などをとにかくわかりやすく表現することです。ハローワークの情報で面接を受けるか受けないかを判断できるようにすることが大切だと思っています。施設に問い合わせをしないと、詳しいことがわからない、というのはそれだけでアクセスするハードルが上がってしまいます。

スタッフやその家族も守る

秀則 事務局長)そして、面接に来てもらった方には組織の理念をお伝えするようにしています。先ほど、理事長が言っていた、「目の前の困っている人を助けたい」という考えは、患者さんや利用者さんだけに向けたものではありません。スタッフやスタッフの家族が体調を壊すことだってあります。

央 理事長)仕事中にスタッフから「親が調子悪くて。」と相談を受けたので、クリニックの受診を勧め、医療的な処置が必要と判断してすぐに入院させたこともあります。

秀則 事務局長)スタッフも困っていたら助けたい。このような考えを面接などでもお話をして、安心して入職してもらえるように努めています。

 

事務局長でも常に理学療法士としての思考回路

 

「弟の理事長を支えます!」と笑顔で語る 事務局長 横山 秀則さん

 重国)私も理学療法士ですので気になるのですが、理学療法士が組織の事務局長になったということで難しさはありましたでしょうか?

秀則 事務局長)私としては、理学療法士と全く違う仕事をしている、という感覚はありません。むしろ、事務局長になった今でも常に理学療法士としての思考回路で仕事をしています。

重国)興味深いです!詳しく教えてください。

秀則 事務局長)理学療法士は問題を分解したり、統合したり、階層性に分けて考えたりすることを常にしますよね。例えば、立ち上がり動作が難しい方がいたとすると、動作の構成要素の問題点を探します。体幹、股関節、膝関節など。それらを機能や構造を一つ一つチェックしてから、再度その情報を統合して、問題点の優先順位をつける。それを最適なトレーニングに落とし込み、それを実践して、再度チェックして、トレーニングを微調整する。こういう思考は、よく言われているPDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action cycle)と同じですよね。これは、組織マネジメントをする上での根幹です。

 

広々とした空間でリハビリができる環境

重国)なるほど。理学療法士は管理、経営などもできますか?

秀則 事務局長)むしろ向いていると思います。理学療法士のみなさん、チャンスがあればどんどんやった方がいいと思いますよ。もちろん他職種とコミュニケーション能力は必須ですけど。

 

長瀞の医療と介護を支えたい

重国)最後に今後の展望などを教えて下さい。

央 理事長)地域での仕事は病気だけをみても問題が解決しないことが多い。患者さん、利用者さん、そしてスタッフも含めて、みんなのおかれている状況、困りごとの背景をもっと理解していきたいです。そして、それを一つ一つ改善して行くことが、長瀞の医療と介護を支えることにつながると思っています。

秀則 事務局長)まず、弟の理事長を支えます!笑

あとは、長瀞の自然を活かして、年齢や障害の有無を問わず、またスタッフも含めて、みんなが楽しめる場所なども、ゆくゆくは作っていきたいですね。

 

取材後記

インタビューの後、事務局長の秀則さんに施設を紹介して頂きながら歩いていると、スタッフの方が、「事務局長!ちょっとお話が」とその場で相談に乗ったり、事務局長がスタッフの方に「この端末、高かったんだから、大切に使ってよ笑」と談笑したり。何気ないやりとりの中にも、スタッフの方々からの期待とスタッフの方々への信頼が垣間見えました。

そして、理事長の央さんは料理がプロ並みとのこと。今度は泊まりでお邪魔させて頂きます!

 

施設概要

■長瀞医新クリニック

介護老人保健施設、併設クリニック/外来・入院病棟・透析室/一体型設計

 

診療科

内科・外科・泌尿器科・皮膚科・胃腸科・肛門科・リハビリテーション科・各種自費診療等・人工透析

病床数

全19床、4人室4部屋、個室3部屋で構成

お問い合わせ

〒369-1311 埼玉県秩父郡長瀞町岩田587

TEL. 0494-66-1000

 

■介護老人保健施設 縄文の里 長瀞倶楽部

外来、入院、ショートステイ、入所といった医療・介護どちらのスタイルも提供でき、ご本人様、ご家族様のニースに幅広く対応。「利用者様、患者様の状況の変化」に合わせたサービスプランの変更も、迅速かつスムーズに対応可能です。

ベッド数

81床

お問い合わせ

TEL. 0494-66-0000

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PROFILE
重國宏次

重國宏次

1980年生まれ。理学療法士。早稲田大学スポーツ科学研究科 スポーツ科学修士課程 修了。東京保健医療専門職大学 専任教員。十条かねたか整形外科で非常勤勤務。2021年外出や旅行を楽しむための身体づくりをサポートするトレーニング・コンディショニング事業「グッドレッグ」を起業。臨床・教育・研究・個人事業に携わりながらセラピストの新たな可能性を模索している。webマガジン「C」編集長。

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