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体育座り、重いランドセル……根深い“昭和の管理教育”が子どもの考える力を阻む要因に

Jun 20, 2022

多くの人がなんの疑問もなくやっていた「体育座り」。ところが、専門家は体に負担のかかる座り方だと指摘する。学校で、体に悪いルールがまかり通っているのはなぜなのか。AERA2022年6月20日号の記事を紹介する。

学校の集会などの定番の座り方といえば「体育座り」。ひざを曲げて両手で抱え込むあの座り方だ。だが、嫌な思い出を持っている人も少なくない。栃木県在住の女性(33)もその一人だ。

「体育館での集会や講演会で、長時間体育座りをした際は、硬い板の床とお尻の骨が当たり、痛みと不快感が出て、終わるまで耐えていた」

千葉県に住む56歳の女性も次のように振り返る。

「私はガリガリにやせていたので、尾てい骨が痛くて、長いこと体育座りができませんでした。動くとしかられた時代でした」

■呼吸も行いにくくなる

アエラが5月に行ったウェブアンケートでは、子育て中の世代からも「子どもも痛いと言っていた」など、体育座りによる痛みについてのコメントが複数寄せられた。

座った時の痛みについては調査も行われている。国際医学技術専門学校(名古屋市)で教壇に立つ理学療法士の増田一太博士が2014年に小学5年生から高校3年生までの939人に実施したアンケートでは、腰痛を感じると答えた子どものうち、66.4%が「座ったときに痛みを感じる」と訴えた。そのうち、「体育座り」の時に痛みを感じるとした児童・生徒は52.3%(複数回答可)と、半数以上を占めたのだ。

「股関節を屈曲した状態で、両手で両膝を抱え込むため、背骨が曲がりやすい姿勢です。呼吸も行いにくくなることに加え、その姿勢で長時間いると腰の痛みを発症しやすくなります」(増田さん)

■長時間同じ体勢がダメ

多くの子どもたちが痛みを感じているにもかかわらず、なぜ、今日にいたるまで「体育座り」を改善しようという動きにならなかったのか。増田さんは理由の一つに、子どもの腰痛に対する認識を臨床現場も持っていなかったことを指摘する。

「当時の子どもの腰痛の認識は、専門書を見ても、整形外科的観点では骨折ぐらいでした」

増田さんによれば、各自治体で子どもの医療費軽減の動きが活発化した11年頃から、整形外科を受診する子どもの数が増加したという。腰痛を訴える子が多くみられたので、調査を始めたところ、腰の痛みを引き起こす原因の一つに「体育座り」があることが分かった。

それなら、あぐらなど別の座り方なら良いかといえば、そういうわけではないという。

「腰に負担がかかるのは、長時間同じ体勢でいることです。『体育座りがダメであぐらが良い』ということではなく、ちょっと痛いなとか、苦しいなと思ったら、自分で座り方を調整してもよいという本人や学校の認識が大事になります」(同)

体育座りのほかにも、学校には、体に良くないルールや慣習がある。例えば、増田さんは、学校で使われている机についても、見直しが必要だと指摘する。座った姿勢で机の板が肘の位置とほぼ同じ高さにくるのが正しい高さだと習っているが、実はこの高さだと鉛筆でノートを書くには低すぎるというのだ。

「鉛筆の場合、書字の際に必ず肘が机に置かれた状態で文字を書きます。この姿勢で考えるならば、机はもっと高い位置にあるほうが、腰が曲がらず、体への負担が少なくなります」

アエラのアンケートでは「重たすぎるランドセルによる通学」を指摘する意見もあった。特に近年は小学校でもデジタル化の影響でタブレットやノートパソコンを持ち歩くことも多くなった。既存のノートと教科書だけでも重かったランドセルがさらに重くなり、子どもたちの肩にのしかかっている。

今年、子どもが小学校に入学したばかりだという都内在住の女性は言う。

「もうすぐ1年生もタブレットが配られると聞いています。今でも十分重たいカバンがこれ以上重くなるのは体に負担にならないかと心配です」

別の保護者も疑問を口にする。

「海外のように布製のリュックではだめなのかなと感じます」

だが、増田さんによれば、重い物を運ぶ観点で見た場合、ランドセルは理にかなっているという。

「ランドセルは底がしっかりしているので、硬い面で荷物が支えられ、形状としては悪くありません。そのことよりも、学校への持ち物の取捨選択が必要で、中に入れる量があまりにも多ければ、腰が曲がり、腰痛の原因になってしまいます」

■体温調節一律おかしい

高額という金銭的な問題はあるものの、荷物を運ぶ道具としては一級品。となると、自分で重さを考慮して、持ち帰る量を調節できるようにすることが大切になりそうだ。

福岡県在住の中学生と高校生の母親(46)が疑問を抱くのは、下着に関する慣習だ。

女性の子どもが通う学校では、体育の授業で体操服に着替える際、体操服の下にはなにも着ないようにというルールがあったという。都内在住で小学5年の女児を持つ母親も、同じルールが腑(ふ)に落ちない。

「汗をかいて下着がぬれた状態で服を着ると風邪をひくといった理由だと思いますが、学年が上がると女子は胸も気になります。娘に下着を着けたらと勧めても、『着ちゃいけないルールだから』とかたくなに拒む。おかしいですよ、やっぱり」

前出の福岡の女性もこう疑問を呈す。

「冬寒くてもひざ掛けも使えない。体温調節に関することが一律で決められすぎている」

一律の決まりがあれば管理はしやすくなる一方で、子どもが自分で考える力は削がれていく。下着を着るのを拒む女子児童のように、周りと違うことはいけないという刷り込みにもなる。

本来は、こうした身の回りのことを考えることこそ思考力を養う練習になると話すのは、『世界のエリートが学んできた「自分で考える力」の授業』の著者で慶應義塾大学などで講師を務める狩野みきさんだ。

「子どもの考える作業を阻む要素の一つが、“そういうものだから”と大人がルールを押しつけることです。下着を着るか着ないかについて言えば、目的は風邪をひかないことでしょう。ぬれた下着を着ないということならば、下着の替えを持っていくなど、別の案でも工夫できます。一律にしてしまうよりも、ゴールに向けてクリエイティブに頭を働かせるほうが、思考力をつけられます」

昭和の管理型教育から抜け出さない限り、日本の子どもたちのクリエイティビティーを育てるのは難しい。学習もさることながら、生活面においての指導も変わらなければ、思考力豊かな子どもの育成は、指導要領の文言だけで終わってしまう。

●子どもの学校では体育で着替える時下着は脱いで体操着だけ着る。冬寒くてもひざ掛けは使えない。体温調節に関することが、ルールとして一律に決められすぎている。管理しにくいという理由でルールが厳しくなっているが、かえって取り締まりに時間を割いている印象があります。(46歳・女性・福岡県)

●「健康な子どもになってほしいから、一年を通じて半袖半ズボン」という校長の鶴の一声で、真冬もその格好でいさせられた。南国でもないのに、非常につらく風邪もひいた。先生たちは冬に着こんでいるのに、生徒に対する思いやりはゼロかと理不尽さを感じた。(54歳・女性・千葉県)

●体育着のシャツインは放熱を妨げてしまう。校外での活動や移動中、暑さと紫外線から守るために必要な日傘やサングラスの使用が不可なこと。5時間目の体育は、昼食直後は消化活動が活発なため、運動には適さない。(38歳・男性・東京都)

●子どもが中学校の吹奏楽部で、バリトンサックス(約8キロ)を演奏時には首から下げていたこと。成長期の子どもの首に2キロ以上の重い楽器を下げて吹かせるのは相当な負担になると思った。(59歳・男性・岡山県)

●全校集会はそもそも全校生徒を1カ所に集める理由がわからないのと、立ったまま話を聞かせたいのなら10分程度にするべきだと思っていました。毎回必ず何人か倒れるのに、どうして学校は改善しようとしないんだろう、と疑問でした。トイレを素手で掃除させられたのは、今でも嫌な思い出です。(49歳・女性・東京都)

●子どもは、まだ衣替えでないからと、暑い日に制服の上着を着て登下校するように言われ、下校時顔を真っ赤にして帰ってくる。気候が年々変わっているので、移行期間を長くしたり、年中自由にしてほしい。(女性・鳥取県)

●体育館での集会や講演会で、長時間体育座りをした際は、中盤から硬い板の床とお尻の骨が当たり、お尻に痛さと不快感が出ていた。終わるまで耐えていたことも含め、心身ともにしんどかった。(33歳・女性・栃木県)

●子どもが運動会での組み体操で中学受験前に右手を骨折。ルールや慣習に対して保護者が意見を言っても検討もしない、考えようともしない。(62歳・女性・東京都)

(フリーランス記者・宮本さおり)

引用:AERA 2022年6月20日号

 

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