見据えるのは5年後、10年後の姿。静岡県高校野球連盟のメディカルサポートの代表を務める理学療法士の男性が、少年野球チーム「グッドフェローズ」を立ち上げた。「障害予防(メディカル)」「フィジカル」「テクニック」の三位一体の指導を掲げ、選手の育成に重点を置く。少年野球の慣習から脱却するチーム方針や練習メニューには根拠がある。
低年齢化、深刻化する肩や肘の故障に行動を起こさずにいられなくなった。4月23日、甲賀英敏さんが発足させた静岡県掛川市の軟式野球チーム「グッドフェローズ」が活動をスタートした。甲賀さんは理学療法士で、県高野連のメディカルサポート代表も務めている。肩や肘を痛めて通院する小学生や、痛みを我慢しながらマウンドに上がる高校球児を目の当たりにしてきた。
「小学生の年代から選手の出場機会が偏っているために、特定の選手が投げすぎてしまい肩や肘を壊してしまうのが現状です。現状を変えないと選手の将来を潰してしまいますし、野球人口は一層減ってしまいます」
甲賀さんやチームの代表でトレーナーの岡田千詠子さんが運営方針に掲げるのは選手の育成だ。グッドフェローズが軟式野球連盟に所属していないのは、目先の勝利よりも未来の勝利を目指しているため。連盟に属すると毎月のように大会があり、勝ち上がれば選手が体を酷使して怪我をするリスクがある。また、大会に向けて練習試合を重ね、活動の大半が試合になりかねない。甲賀さんは「現在の学童野球の試合数は、子どもたちの体に負担が大きすぎます。小学生の時期は、技術指導に加えて、基礎体力や運動能力を高めることが大切だと考えています」と語る。
グッドフェローズは障害予防(メディカル)、フィジカル、テクニックの三位一体で指導する。選手たちの成長に合わせた練習メニューを組み、基礎体力や運動能力を向上させるトレーニングはジュニアアスリートの指導に精通した岡田さんや外部コーチが担当する。子どもたちの集中力を考えて、30分ごとに休憩を取る。練習時間を午前9時からの3時間にしているのは、練習後に昼ごはんを食べて昼寝をしてもらう狙いもある。成長ホルモンが分泌され、身長が伸びやすくなるという。
限られた練習時間で重視するのは、トレーニングと体の使い方。練習の3分の1ほどは、バットやグラブを使わない。肩の可動域や柔軟性を高めるトレーニングや、無理や無駄のない走り方などを練習。怪我の予防に加えて、多様な動きを体に覚えさせている。芯に当たらないと飛距離が出ない竹のバットを打撃練習で使うのは、理にかなったスイングやミート力を身に付けるためだ。指導者の経験や感覚で野球を教えるのではなく、科学的知見で選手を育成する。
「勝利至上主義や大会を中心とした今の仕組みは、怪我のリスクを高めるだけではなく、運動能力が伸びる大切な時期に選手が成長する機会を奪ってしまいます」と甲賀さん。少年野球の現状に対する危機感からチームを創設した理学療法士は、活動を通じて風穴を開けようとしている。
(間淳 / Jun Aida)
引用:Full-Count
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