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ブルース・ウィリスさんの失語症とは 脳損傷、物の名前言えず

Apr 5, 2022

失語症を理由に30日、俳優業からの引退を表明したブルース・ウィリスさん(67)。親族による声明によると失語症が「(ウィリスさんの)認知能力に影響を与えている」というが、専門家は「ものごとを考えたり判断したりする能力は保たれている場合が多く、認知症ではない」と説明する。失語症とは一体どのような病気なのか。

日本失語症協議会のホームページによると、失語症は脳卒中や事故などで脳の言語中枢が損傷を受けると出現する疾患。「話す」「聞く」「読む」などの言語機能がうまく働かなくなるという。

軽度から重度までさまざまで、時々ものの名前が思い浮かばない程度の比較的軽い人や、「はい」「いいえ」の返事ができない重度の人までいる。時計を見て〝時間を見る物〟であることはわかっているのに「トケイ」という名前が言えなかったり、リンゴを「ミカン」と別の名前に間違って言ってしまったりすることもあるとしている。

日本国内に50万人の患者がいるともいわれる失語症。本紙連載「脳を知る」で、那賀病院(和歌山県紀の川市)の藤田浩二副院長(脳神経外科)は「ものの名前を言う、言葉を聞いて理解する、文字を読んで理解する、文字を書く、これらの一部、あるいは全てが難しくなる」「日常生活において大きな問題になる」と説明した。令和3年8月に掲載された「脳を知る」全文は以下の通り。

脳を知る】失語症 認知症とは違う言葉の障害

脳梗塞や脳出血などの脳卒中、頭部外傷、また脳腫瘍の患者さんの多くは手足の運動麻痺(まひ)やしびれの他にも、言語障害をきたすことがあり、日常生活の質を落とすことがあります。言語障害には構音障害と失語症の2種類がありますが、特に失語症が日常生活において大きな問題になります。

構音障害とは、言葉をしゃべるときに使う顔面の筋肉、舌などの運動麻痺が原因で、上手に話すことが難しくなる状態、いわゆる「ろれつが回らない」「滑舌が悪い」などの症状を言います。

一方、失語症とは「話す」「聞く」「読む」「書く」という言葉そのものに関するさまざまな障害が生じます。ものの名前を言う、言葉を聞いて理解する、文字を読んで理解する、文字を書く、これらの一部、あるいは全てが難しくなります。構音障害は「ろれつが回らない」だけで、ものの名前を言う、言葉を理解する、読み書きの能力は全く問題がないのとは大きく異なります。

人間は進化の過程で、言葉や文字を使い、会話を行う能力を手に入れ、意思の疎通を行うことができるようになった特殊な動物です。この進化の過程で、人間だけが言葉を受け持つ脳の領域を完成させ、言語能力をその部分に蓄えるようになりました。ところが脳の病気で言葉の領域が傷つくと、せっかく獲得した言語能力を失うことになります。これが失語症です。

失語症の原因となる代表的な病気は脳卒中、特に脳梗塞です。言葉を担当する領域は左側の脳にあることが多く、左側の脳梗塞で失語症を起こすことが多いです。

みなさんに誤解しないでいただきたいのは、失語症は認知症ではないということです。患者さんと言葉によるやりとりが難しくなると、その患者さんが認知症ではないかと間違われることがあります。失語症は言葉の障害ですが、ものごとを考えたり判断する能力は保たれている場合が多く、認知症ではありません。言葉自体は通じなくとも、身ぶりや表情で意思疎通が十分に可能となることもあります。

また失語症の症状は状況によって変化することがあります。あるときはうまく言えたのに別の局面では言えないことも多く、言葉も簡単に理解できるときと難しいときがあります。リラックスした状況では言葉は理解しやすく話しやすいのに、大勢の人前で話すなど緊張した場面や、慌てて会話しようとすると、言葉が理解できなかったり話せなかったりすることも多いです。また長い言葉や早口の言葉も、失語症の患者さんには理解が難しくなります。

失語症の患者さんと話すときは、患者さんをできるだけ落ち着かせた状態で、真正面に向かい合い、文を短くしてゆっくりと穏やかに話すようにしてあげましょう。

(公立那賀病院副院長 脳神経外科 藤田浩二)
出典:産経新聞
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