グーグル検索に見る米国外の大退職トレンド

米国では、一度に多くの人びとが退職する「大退職トレンド」が起こっている。2021年9月には、単月で440万人以上の人びとが退職したと報じられた

この大退職トレンドは、米国特有のものと見られているようだが、様々な分析では他の国でも同様の傾向があぶり出されている。

たとえば、グーグルが実施した分析では「How to leave your job(退職する方法)」というワードが世界各地で検索されていることが判明した。

2021年1月〜2022年1月の期間、世界の「How to leave your job」の検索ボリュームを分析すると、最も多いのはフィリピンであることが明らかになった。

フィリピンの指数を100ポイントとすると、オーストラリアが59ポイントで2位にランクイン。これに、米国が58ポイント、カナダが56ポイント、英国が46ポイント、南アフリカが45ポイント、インドが18ポイントと続いた。

この検索ワードは英語であるため、英語圏、または英語がよく利用される国・地域に分析対象が限定される点には留意が必要だ。

グーグル検索分析が示すように、実際にフィリピンでも「大退職トレンド」が発生していることが地元メディアの報道から見えてくる。

たとえば、地元ビジネスメディアManila Bulletinが2022年2月17日の記事で伝えたフィリピンIT企業Sprout Solutionsの調査によると、パンデミック期間の2020〜2021年にかけて、自主退職率(voluntary attrition rate)は平均73%増加したという。

自主退職率を産業別に見ると、プロフェッショナル産業で特に高く、実に274%増加したという。このほか、アート/エンタメ/レクリエーション産業で207%増、上下水/廃棄産業で185%増、建設産業で120%増加した。

グーグル検索の人気転職先ランキング

上記のグーグルによる検索ワード分析は、人びとの退職傾向だけでなく、退職後どのような職に就きたいと考えているのか、転職希望の傾向もあぶり出している。

英語圏では以下のような転職希望の傾向が明らかになった。

1位 不動産エージェント、2位 キャビンアテンダント、3位 公証人(Notary)、4位 セラピスト、5位 パイロット、6位 消防士、7位 パーソナルトレーナー、8位 精神科医、9位 理学療法士、10位 電気技師。

興味深いのは、米国における傾向だ。

グーグルが転職希望の検索トレンドを米国各州にまで細分化して分析したところ、ほとんどの州で「公証人」が最も検索されているワードであることが判明したのだ。

公証人とは、日本ではあまり馴染みのない職業だが、米国では公証人需要が大きく伸びており、転職先として検討する人が増えている。

米国における転職希望トレンドマップ、水色:公証人が検索トップとなった州(グーグルブログより)

関連スタートアップも業績好調、公証人という職業

米国各州で検索が増えている「公証人」とはどのような職業なのか。

印鑑ではなく、サインによる書類証明を行う米国では、そのサインが本人のものであるのかを認証する作業が必要となる。この認証を行うのが公証人の仕事だ。

たとえば、ビジネスや不動産売買などの大きな契約をする場合、様々な書類にサインをすることが求められる。このとき公証人は、サインする場に立会い、そのサインが本人によってなされたことを確認し公証するのだ。

公証を管轄するのは、連邦政府ではなく州政府。このため、州ごとに異なるルールが定められている。

パンデミック前、公証人は上記のようにサインする場に立ち会うのが通例だったが、コロナ禍のソーシャルディスタンス要請やデジタル化の促進によって、その様相は大きく様変わりしている。現在、公証の多くがリモートでなされるようになっているのだ。

この変化を促進した要因の1つがデジタル公証スタートアップNotarizeの存在だろう。

各州における公証のデジタル化を後押しし、2021年には前年比売上600%増という脅威的な伸びを記録した。

同年3月には、シリーズDラウンドで1億3000万ドル(約149億円)を調達。これにより累計調達額は2億1300万ドル(約245億円)、評価額は7億6000万ドル(約876億円)に達した。米メディアでは、次のビリオンダラースタートアップとして注目を集める存在となっている。

Notarizeによると、公証トランザクション数は米国だけで年間12億回に上り、市場規模は320億ドル(約3兆6900億円)に達するという。

米国や他の国における「大退職トレンド」に関連して、他にどのような変化が見えてくるのか、今後の動きにも注目していきたい。

文:細谷元(Livit

出典:AMP