漢字には様々な学習法があります。中でもユニークなのが、立体的に浮き出た文字の形を触って覚える方法。言語聴覚士の宮崎圭佑さんは「触ることで記憶が補強され、効率よく覚えられる」と言います。宮崎さんが開発した「触るグリフ」は、世界初の「文字綴(つづ)りの触覚学習技法」として特許が認められました。
みやざき・けいすけ/1984年、兵庫県生まれ。京都大大学院人間健康科学系専攻脳機能リハビリテーション科学分野修了。一般医療機関、京都大医学部付属病院精神科診療部勤務を経て、触読版シートの開発工房「サワルグリフ」(https://sawaruglyph.com/)を開業。専門は学習障害(ディスレクシア、算数障害)への触覚‐視覚間の記憶統合効果の臨床応用。
――「触るグリフ」というのは、どのような教材ですか?
グリフというのは、字形のことです。特殊な紙とインクを使い、文字を浮き上がらせたシート型の教材で、ざらざらした文字の形を指の腹で触りながら読むことで、頭の中で文字の形のイメージを作ることを促します。ひらがな、カタカナ、漢字に加え、英単語、算数のシートも作り、自社サイトで販売しています。今年1月には、世界初の「文字綴(つづ)りの触覚学習技法」として特許が認められました。
――開発のきっかけは何だったのでしょうか。
人も霊長類の一種なので、見て分からない複雑なものは手で触れて確認しようとします。2000年代以降、手で触れた方が物を認識したり記憶したりしやすくなることが分かってきました。私は大学院時代の研究で、複雑な図形を3Dプリンターで立体化し、見ながら触れる人たちと、見るだけの人たちが翌日どれだけ覚えているかを比較しました。結果は、見ながら触れる「触覚学習」をした人たちの記憶の方が著しく優れていたのです。ディスレクシア(読み書き障害)など読み書きが苦手な人たちにも触覚学習が利用できるのではないかと考えたことが、「触るグリフ」の開発につながりました。
漢字のようにパーツの組み合わせからなる複雑な形も、触覚学習で頭の中に形のイメージを形成することで、より覚えやすく、思い出しやすくなります。漢字の学習法はたくさんありますが、どれもまずは漢字のパーツを含めた形を頭に入れる必要があるので、見ながら触れる学習は有効です。
――文字の覚え方の基本は、何度も書くことだと言われます。
漢字という複雑な文字を小学校で1千文字以上も覚えるのは大変なことです。それができるのは漢字に意味があり、手を動かして書くという運動イメージで記憶を補強しているからです。多くの児童は、まず読みや意味とひも付いた漢字の形のイメージをぼんやりと持ち、そのイメージを手を動かして補強するから頭に残るのです。
ただ、その方法が万人に良いとはいえません。特にディスレクシアの子は、意味に紐付いた漢字の形のイメージ自体が弱いので、必ずしも繰り返し手で書いて覚える方法が良いとは限りません。書いて覚えられない場合は、触読学習の方が効率が良い場合もあります。漢字の形がそのまま指の腹に刺激として伝わるからです。
――「触るグリフ」には、文字がひと文字ずつのシートに加え、短文のシートもありますね。
ディスレクシアの子は文字列を単語としてひとまとめに認知するのが苦手で、文字をひと文字ずつ読む「逐次読み」をする傾向があります。短文を触りながら読むのを繰り返すことで、逐次読みが減り、単語をひとまとめに読めるようになります。単語をひとまとめに読めるようになると、文字を読む負担が減り、疲れにくくなるという人が多いのです。
――立体的な字が書ける、いわゆる「もこもこペン」を使い、同じような教材を自作している例もあると聞きました。
もこもこペンと紙だと文字の出っ張り部分が判別しにくいので、木工用ボンドを使って段ボールに文字を書く方法がおすすめです。ざらざらの段ボールとつるつるのボンドといったように、素材感に差があるのがポイント。私も最初はその方法で作っていました。家庭でいくつか作って試してみて効果があれば、ぜひ「触るグリフ」を使っていただきたいですね。
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