ザラザラ下じき、滑らない折り紙…… 子どもの「できた!」、凹凸で支える

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ザラザラ下じき、滑らない折り紙…… 子どもの「できた!」、凹凸で支える

Mar 7, 2022
山下 知子

鉛筆が滑ってしまってうまく文字が書けない、枠からどうしてもはみ出してしまう、折り紙が折れない……。そんな子どもたちのために、「触覚」に注目した文具や教材が生まれています。特殊な印刷技術で文字や図形の輪郭に凸を作り出したり、下敷きに凹凸加工を施したり。商品開発を続けるのは、印刷・教材開発会社の「オフィスサニー」(東京都荒川区)。同社取締役の高橋晶子さんは「誰もが得手不得手がある。発達に偏りがあるか否かにかかわらず、ちょっとした工夫で子どもの『できた!』を作り出したい」と話します。開発の経緯や特長について聞きました。(写真は、輪郭に盛り上がりを作った「手指で感じる凹凸書字ドリル」=オフィスサニー、世界文化社提供)

 

話を聞いた人

高橋晶子さん

株式会社オフィスサニー取締役

(たかはし・あきこ) 東京都荒川区生まれ。夫と共に義実家の家業である写植業から、印刷デザイン会社「株式会社オフィスサニー」を設立。オリジナル紙雑貨ブランドplus Orangeの立ち上げを経て、2017年に子ども発達支援事業「できるびより」をスタート。3児の母。

 

「魔法のザラザラ下じき」を使ってみました。文字を書いている感覚がしっかりと伝わってきました。

きっかけの一つは、特別支援学校や特別支援学級で、子どもたちに紙やすりを下に敷いて文字を書かせることがある、と聞いたことです。視覚だけでなく、ザラザラする刺激が伝わり、頭の中でイメージする文字と実際の手の動きが連動しやすくなるのです。

また、筆圧が強かったり弱かったりすると、鉛筆が滑ってしまいます。ある程度ひっかかりがあった方が、書きやすいことがあるんですね。大人だと、かつて学校で使われていたわら半紙が書きやすかった、と思い出すかもしれません。

紙やすりでは、手にけがをすることもあります。そこで、表面にマス目、裏面にドットで凹凸をつけた、紙の「マス目ボコボコシート」を作りました。マス目の数など、どこまでバリエーションを広げるか考えた時、下敷きを作ることを考えました。

ただ、プラスチック加工の経験はなく、いったんは諦めました。が、マス目ボコボコシートを下じきのように使っていた佐賀県の小学校の先生から一昨年の夏、「プラスチックで作れませんか?」と依頼されました。子どもから「魔法みたいに書ける」と声をもらったのだそうです。

それでは、とプラスチック加工業者や点字印刷会社と連携し、割れたときの安全性と環境面を考慮して、再生PETのプラスチックを使って作りました。ドットの大きさは、直径0.6ミリ、0.9ミリ、1.2ミリの3種類を荒川区の子どもたちに試してもらい、直径0.6ミリに決定。突起の高さを調節し、ドットの間隔と配置も書いた時に鉛筆がはまらないようにしました。

昨年2月に発売したところ、1週間で2千枚売れました。学校からも問い合わせがありましたね。文具教材会社と販売契約を結び、この1年間で、万単位で発注いただきました。

 

「魔法のザラザラ下じき」=オフィスサニー提供

 

凹凸のある折り紙も作っていますね。私の息子は、折り紙がとても苦手でした。角がうまく合わず、折りスジも不十分。隣に座って教えても、嫌になって投げ出してしまう。できない原因がどこにあるのか分からず、悩みました。

幼稚園や保育園、小学校などで折り紙はよく使います。できないとつらいですよね。

折り紙は一方の手で押さえ、もう一方の手で折ります。右手と左手で違う動きをするのが苦手な子はいて、特に押さえる方がうまくいかないんですね。ある幼稚園では、シリコーンマットを敷いて折り紙が滑らないようにしている、と聞き、だったら紙自体が滑らなければいいのでは、と考えました。下じきと同じように、表面に凹凸をつけ滑り止め加工をしました。

角をきれいに合わせるのも難しいですよね。ですので、裏面の四隅を黒くしました。そうすると、「黒が見えない=角が合う」ことになり、子どもにとって視覚的に折りやすくなります。

この折り紙は、導入時のサポート的な位置づけです。できるようになったら普通の折り紙を使ってみてください。

いま、凸加工をしたぬり絵を出したいと思っています。どうしても線からはみ出てしまってうまくいかない、だからぬり絵は嫌い、という子に届けたいですね。また「読み」の支援も行いたいと思い、行を飛ばして読んでしまう子どものために、読むべき行を際立たせる読書補助具「リーディングトラッカー」も作りました。大人向けだと1行が細いので、児童書や教科書の文字の大きさを考えて作りました。ここにもザラザラの加工を使っています。

――もともとは写真植字(写植)会社だったとか。こうした文具や教材を作ることになったのはなぜですか?

1966年に義父が写植会社を始め、写植をやめてからは印刷デザインをしてきました。ネット印刷が広がり、価格競争も激化する中、どう生き残るか考えた時の一つの道が特殊印刷。熱処理をして線に凹凸を付けるバーコ印刷を始めて名刺に使ったり、鹿革に漆を使って柄を施した伝統工芸品「印伝」の風合いのような紙を作って紙雑貨を製造したりしましたが、伸び悩んでいました。

会社がある荒川区の経営支援課を通じて、東京電機大のデザイン工学の先生に出会い、そこから、専門作業療法士の鴨下賢一さんとつながりました。当時は静岡県立こども病院に勤め、現在は福岡県福津市でリハビリ発達支援ルーム「かもん」を開いています。

多くの子どもたちの学習支援にあたってきた鴨下さんは本当にたくさんのアイデアを持っていました。それを私たちの技術で実現していこうと思ったんです。初めて会った時は、名刺交換をする前から「これを作ってみたい」「これならできる」と大盛り上がり。以来、鴨下さんの監修のもと、商品開発を進めています。

――商品開発の中で、大切にしている思いは何でしょうか。

「うまく書けない」が「書きたくない」につながり、「授業中にノートを取らない」になっていく。それが、下じきなどの文具のちょっとした工夫で「うまく書けた」となれば、「書きたい」につながっていきます。人には大なり小なり、苦手なことがあります。その苦手を支え、子どもの「できた!」を増やし、意欲ややる気につなげていければと思っています。

一連の商品には、「できるびより」のブランド名を付けています。「できることが少しずつ増える毎日」の意味を込めました。「び」の濁点は、植物の芽のイラスト。子どもたちの「できるようになりたい」という気持ち、意欲の芽をつぶさない、逆にその芽を育てていく思いを込めています。

写植から出発し、あれこれ模索して、今また文字と関わって仕事をしています。3人の子どもを育てる中で試行錯誤してきた経験を生かしながら、「文字と子ども」というテーマに今後も取り組んでいけたらと思っています。

出典:朝日新聞 EduA

 

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