障害者の権利擁護に向けた政府の取組が進展している。令和6年4月には改正障害者差別解消法が施行され、障害者に対する合理的配慮(reasonable accommodation)の提供が事業者にも法的に義務付けられた。改正法施行に先立ち、令和5年3月には、政府全体の「基本方針」が閣議決定され、この基本方針に即して文部科学省など各府省が所管する事業分野における「対応指針」が分野ごとに策定された。これら政府の基本指針や対応指針等は改正法施行と同じ4月から実施されている。
一連の制度改正により、合理的な配慮の提供について法的な義務を負うこととなる事業者の中には、私立学校の設置者も含まれる。本年4月から私立大学等も合理的配慮の提供が義務化されたが、それはこのような文脈によるものなので、特別に教育機関のみが改正法の対象となったものではない。
私立学校における合理的配慮の義務化により、国公私立の全ての大学等が合理的配慮の提供義務を法的に負うこと等を踏まえ、文部科学省は、昨年5月「障害のある学生の修学支援に関する検討会」を立上げた。検討会は大学等が共有すべき「基本的な考え方」などについて審議を重ね、本年3月に報告(第三次まとめ)をとりまとめた。報告は「障害のある学生の現状」、「これまでの取組の進捗状況」など7章と附属資料等で構成されている。ここでは主要な検討テーマである「障害学生支援に関する基本的な考え方」「諸課題の考え方と具体的な対処の取組」の章に掲載された事項のうち、主要な事項の概要を紹介する。文部科学省ホームページから、検討会の報告の主要な文言を抜粋・要約すると以下のようになる。
1.大学等は、自らの価値を高め、学生に対する責務を果たすため、事前的改善措置により教育環境の整備を図るとともに、障害学生支援を障害学生が平等に学ぶ権利を保障する手段であるとの認識の下で、着実に実施することが必要。支援では合理的配慮以外の学生支援リソースも総合的に活用することが望ましい。
2.「障害の社会モデル」の理解に関して、社会的障壁とは、障害がある者にとって生活上の障壁となるような社会における一切のものをいう。この考えに基づくと、障害のない学生を前提とし構築された仕組みや構造が社会的障壁となっている場合がある。このことを大学等の構成員全てが理解し、社会的障壁を除去するとともに、各種支援リソースを総合的に活用しながら取り組むことが必要。
3.障害の根拠資料に関する考え方について、個々の状況を適切に把握するため、学生から根拠資料の提出を求めることが適当。一律に「根拠資料がなければ合理的配慮を提供しない」といった形式的な対応をとらないよう留意する必要がある。
4.責任の所在を明確にし、障害学生支援に取り組むために、教職員の共通認識が不可欠。その手段としては教職員向けの対応要領・ガイドライン等が有効である。
5.学生の状況と授業の状況を総合的に考慮し、オンライン参加の可否を個別に判断すること。対面とオンライン学修を組み合わせたブレンディッド型授業も要考慮。大学等の事情ではなく、本人の意向や教育の質の担保の観点が必要。
6.大学等と国、地域・企業・民間団体等との連携や大学等連携プラットフォームを更に活用すること。
最後に、本報告は、「大学等が学生を第一に考え、障害のある学生が平等に教育を受ける権利を享受できる環境を構築することは、コンプライアンスの観点からはもちろんのこと、開かれた大学等として価値や魅力を高めるための重要な要素となる。各大学の役員や管理職はこのことを強く認識し、障害学生支援への理解を深めるとともに自大学等の運営方針の一つとして位置づけ、取組を推進していくことが望まれる」としている。このたびの改正法による合理的配慮の義務化を契機として、大学等における障害のある学生への修学支援が一層充実されるとともに、公正な社会の実現に向けた取組が加速化することを期待したい。
1989年東京学芸大修士課程修了、同年文部省入省、99年在韓日本大使館、02年文科省大臣官房専門官、初等中等教育局企画官、国立教育政策研究所センター長、総合教育政策局課長等を経て22年退官、この間京都大学総務部長、東京学芸大学参事役、北陸先端大学副学長・理事、国立青少年教育機構理事等を歴任、現在に至る。神奈川県立相模原高等学校出身。
引用:大学ジャーナル
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