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<スポーツの今>引退競走馬を救い、人の心身を癒やす「共生」 滋賀・栗東

Oct 19, 2023

日本中央競馬会(JRA)の調教拠点、栗東トレーニングセンターが立地する滋賀県栗東市(2001年9月まで栗東町)。この地にある「TCCセラピーパーク」は、23年に開設5年目を迎えた。けがで競走を引退した馬が療養する「ホースシェルター」を備えるとともに、引退馬やポニーをパートナーに障害のある子どもたちの療育活動に取り組んでいる。「人と馬の福祉」をテーマに、新しい共生の形を目指している。  引退競走馬の支援活動を展開する会社「TCC Japan」が運営。理学療法士の山本妃呂己(ひろみ)さん(45)が施設のリーダーを務める。山本さんの父は、「天才騎手」とうたわれながら、レース中の落馬事故で引退した福永洋一さん(74)。騎手としてJRA歴代4位の2636勝を挙げ、23年3月に調教師となった福永祐一さん(46)は兄に当たる。  父が一時は生命も危ぶまれる落馬事故に遭った時、山本さんは生後約5カ月。リハビリを続ける父を支える家族の中で育ったことが、理学療法士を志すことにつながった。一方、競馬関係者の多い栗東で育ち、トレセンの乗馬スポーツ少年団に参加したものの「乗ることは、それほど好きではなかった」。馬にひかれたのは、横浜市内の病院に就職し「ホースセラピー」を学んだのが契機だった。  馬をパートナーとして人の心身の状態を向上させたり癒やしたりする活動だ。改めて馬に目を向けた時、山本さんにとって看過できないことがあった。毎年7000頭のサラブレッドが生まれる中で、競走を引退した馬の多くが、次の行き場がないという現状だ。  この頃、同じ栗東出身で東京都内でIT企業を経営していた夫の高之さん(43)にも転機があった。11年3月に発生した東日本大震災の災害ボランティアに参加し、「いろいろ感じることがあったようです。地元の役に立つビジネスがしたいと……」と山本さんが振り返る。高之さんは15年に本社を栗東市に移転。山間部の古民家に馬場を造成してポニー2頭を飼養し、山本さんが新たに児童発達支援・放課後等デイサービス「PONY KIDS」を手掛けることになった。  翌16年には引退馬を支援するファンクラブを設立。18年には社名を「日本サラブレッドコミュニティクラブ」(現TCC Japan)と改めた。約2200平方メートルの敷地に厩舎(きゅうしゃ)や馬場を備えたTCCセラピーパークは、19年5月に開所した。  引退馬の療養や預託にかかる費用は、約2800人のファンクラブ会員が支えている。一方、受け入れるのは、しばしば競走引退の原因となる屈腱炎(くっけんえん)や裂蹄(れってい)が重症だったり、骨折をしたりした馬が多い。「シェルターには、なるべくぎりぎりの状況の馬を受け入れているんです」と山本さんが説明する。  JRAの西日本地区の拠点である栗東トレセンには、レースに向けて常時約2000頭の馬が滞在している。このため、周辺には専門の獣医師や装蹄(そうてい)師も集まっている。引退馬への関心は年々高まっており、支援する団体なども増えていることから、山本さんは「栗東市の強みを生かして馬を救うのがTCCの役割」と考えている。これまで51頭(9月20日時点)を受け入れており、現在は4頭(同)がシェルターで療養している。  けがが癒えた馬は、乗馬クラブや牧場など全国各地の提携施設に巣立っていくが、所有権はTCCが持ち続けて終生支える。ファンクラブの特色は、会員に対して馬と触れ合うさまざまなプログラムを提供していることだ。ファンクラブの一般会員や、馬の一口オーナーなど、負担する会費によって参加できるプログラムは異なるが、「気軽に馬に会い、触れ合うことができることを大切にする」というのがコンセプトだ。  セラピーパークには療養中の馬とは別に、中央競馬の重賞で2勝し獲得賞金2億円を超えたメイショウナルト(15歳)と中央0勝ながら現役時から人懐こく穏やかな性格で愛されたラッキーハンター(12歳)がセラピーホースとして暮らしている。2頭ともセラピーパークの開所前にTCCに受け入れられ、提携施設での療養とリトレーニングを経て帰ってきた古株だ。  セラピーパークを訪れた会員は、スタッフのサポートの下、持参したニンジンを与えたり写真を撮ったりして過ごす。もちろん乗馬もできるが、「馬に乗れなくても、ゆっくり過ごすことを楽しむ会員さんは多いです。馬が好きな人同士で出会い、おしゃべりすることも喜んでくれる」とスタッフの川口洋子さん(50)。高齢になったり、再びけがをしたりすれば、馬は人を乗せられなくなる。乗る以外にも馬を活用することが、その居場所を広げることになるというわけだ。  「PONY KIDS」もセラピーパーク内に移り、年間延べ約4000人がホースセラピーを含む療育プログラムを利用する。ポニー7頭とメイショウナルト、ラッキーハンターをパートナーに、子どもたちがブラッシングをしたり、厩舎を掃除したり、馬に乗ったりする中で、体の使い方やコミュニケーションを学び、優しさや思いやりといった感情を育む。体を動かすのが難しい子どもも、山本さんと一緒にポニーにまたがって馬場を歩くうちに満足げな笑みを浮かべる。  「実は、気質や背丈の高さから、サラブレッドはホースセラピーには向かないと言われることもしばしばです」と山本さんは明かす。それをカバーするように、スタッフ28人には理学療法士や作業療法士、保育士など医療・福祉の専門職に加えて乗馬インストラクターと人材がそろっており、元競走馬のラッキーハンターらも子どもたちを乗せるのは得意としている。  「姿の美しさや手触り、乗った時の想像以上の高さなどは、サラブレッドならでは。セラピーにおいて、サラブレッドにしかできないこともある」と山本さんは強調する。競走を引退し、けがを癒やした馬たちが、今度はセラピーや触れ合いで人を癒やす。そんな活躍の場を作ることで、引退馬の居場所を広げようとしている。【藤倉聡子】

引用:毎日新聞

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