文部科学省が策定している医学教育モデル・コア・カリキュラムの2017年改訂において、「ジェンダーの形成ならびに性的指向および性自認への配慮方法を説明できる」という学習目標が初めて示された。東京慈恵会医科大学総合医科学研究センター臨床疫学研究部の吉田絵理子氏らは、日本におけるレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)に関する医学教育の詳細を米国・カナダの先行研究と直接比較する初の試みを実施。日本ではLGBTに関する教育が不足していることをBMJ Open2022; 12: e057573)に報告した。

国内の全医学部、医科大学に質問票を送付

LGBTの人々は、精神的・身体的なさまざまな健康上のリスクにさらされていることが報告されている。また、トランスジェンダーを対象とした日本の調査では、4割以上が受診時の不快な経験や医療機関の受診控えを経験しているとの報告もある。医療現場でLGBTへの適切な対応を行うためには適切な教育が求められる。

吉田氏らは、日本の82校の医学部部長または医科大学学長に、LGBT教育に関する質問票を送付。質問票は米国・カナダで実施された先行研究(JAMA 2011; 306: 971-977)で用いられた13項目に5項目を加えた計18項目から成る。

2018年7月〜19年1月に82校中60校(73.2%)から回答を得て、18問中11問に未回答だった1校を除く59校(72.0%)のデータを解析した。

臨床実習前教育でLGBT教育を行っていた大学は59校中31校(52.5%)で、18校(30.5%)は全く行っていなかった。LGBT教育に費やした時間の中央値は1時間(四分位範囲0〜2時間)、平均時間は1.6±標準偏差(SD)2.4時間だった。10校(16.9%)が教育に費やしている時間は不明と回答した。

臨床実習でLGBT教育を行っていた大学は53校中8校(15.1%)で、25校(47.2%)は全く行っていなかった。LGBT教育に費やした時間の中央値は0時間(四分位範囲0〜0時間)、平均時間は0.3±SD 0.6時間だった。20校(37.7%)が教育に費やす時間は不明と回答した。

多くの大学がLGBT教育の不足を認識

一方、2009〜10年に米国・カナダで行われた先行研究では、LGBT教育を行っていなかったのは臨床実習前教育で132校中9校(6.8%)、臨床実習では44校(33.3%)のみだった。また、教育に費やした時間の中央値は臨床実習前教育、臨床実習でそれぞれ4時間(四分位範囲2〜6時間)、2時間(同0〜3時間)で、臨床実習前教育、臨床実習ともに、日本は米国・カナダと比べてLGBT教育を行っていない大学の割合が高く、教育時間も短いことが示された。

今回の調査では、LGBTの健康に関するファカルティ・ディベロップメント(学教員の教育能力を高めるための実践的方法)を実施している大学は59校中5校(8.5%)にすぎず、性行為に関連する病歴聴取の際、学生に同性との関係についても情報を得るように指導していたのは13校(22.0%)のみだった。

LGBT教育の充実度については57校中45校(79.0%)が「乏しい」または「とても乏しい」と回答しており、多くの大学が教育の不足を認識している実態が示された。

吉田氏らは「われわれ研究成果はLGBTに関する医学教育の課題を明らかにし、今後の改善を促進する上で基礎資料となる。これを基に、LGBT教育が質・量ともに充実することが望まれる」と展望。「ただし、個々の大学のみでは達成は難しいため、組織横断的な学習コースの構築が必要かもしれない」と付言している。

(安部重範)