メンバー全員が音楽大学声楽科出身、身長180センチ以上という“イケメン”ボーカルグループ「LE VELVETS(ル・ヴェルヴェッツ)」の佐賀龍彦(42)が脳梗塞を発症したのは2021年9月。マイクを握ることすらできなかった状態だったが、ファンの温かいメッセージに支えられ、懸命にリハビリを重ねた。そして1年足らずでの現場復帰。3月17日から東京と京都で行われるグループ結成15周年を記念したライブでは、フルオーケストラをバックにソロでの歌声も披露する。(時事通信大阪支社 中村夢子)
佐賀の魅力はなんと言っても高音の突き抜ける声。バリトンの宮原浩暢(43)、テノールの日野真一郎(40)、佐藤隆紀(37)と共に、クラシックだけではなく、ロックやポップス、日本の民謡も歌いこなす。佐賀はグループ内では公演やMCのたたき台を作る役割も担ってきた。
ところが、19年に脳の血管の一部が膨らんだ「未破裂脳動脈瘤(りゅう)」が発見され、21年9月にカテーテル手術を受けることに。しかし、血管が細かったため手術中、他の血管が傷つき、脳梗塞を発症してしまう。佐賀は、「最初は右半身が動かず、どうしようかと思った。ようやくリハビリが始まったのは2週間が過ぎた頃だった」と振り返る。今では一見すると大病を患ったようには思えない佐賀だが、一つ一つの言葉を絞り出すように、ゆっくりと話した。 理学療法士、作業療法士、言語聴覚士からは1日計3時間ほどのリハビリをするよう指導されたが、佐賀は午前6時から午後8時まで半日以上の時間をリハビリに当てた。機械や器具で補助しながら手足を動かす訓練や、きちんと発音するために口を動かす練習もした。「やるしかなかった。ただステージに立つことだけを信じて毎日ひたすらリハビリをした」。
「また帰る場所があったのでリハビリを頑張れた」と話す佐賀龍彦=2023年2月9日、大阪市内【時事通信社】
モチベーションを保つのは簡単なことではない。「気持ちが下がりかけて、精神的におかしくなってしまいそうな時もあったが、その度にファンの人達から送られてきた手紙や千羽鶴、お守り、『早く帰ってきて』『頑張って』などの声に励まされ、立ち上がれた」と涙ながらに語る。 病院でのリハビリが終わり、佐藤らメンバーの元へ向かった佐賀。しかし、佐藤はその変わり果てた姿にがくぜんとした。「『もう大丈夫だよ』という感じで見せたかったのだろうけれど、足も不自由だし、会話の返答にも数秒かかる。歌も全然歌えなくなっていて、声楽の初歩すら忘れていた」という。そんな状態から、佐藤が声楽の理論を基礎から説明したり、実際に手本を見せたり、少しずつ感覚を取り戻している最中だ。
そしていよいよ迎えた22年10月の復帰コンサート。「フルでは出られないが、『やれることはやろう』と心に決めて臨んだ。最初にステージに立った時に、観客から『待ってたよ』という拍手が起こり、感動して泣いてしまった」と佐賀。その時歌った『You Raise Me Up』はLE VELVETSにとって重要なナンバー。佐藤は「佐賀がいない時にも、彼が本来いるべき立ち位置にスポットライトを当てて存在を表現していた曲。復帰コンサートでは、そこに佐賀が戻ってくるという演出で、感動的だった」と話す。
3月からの「LE VELVETS 15th ANNIVERSARY Premium Symphonic Concert 2023」では、計17曲を歌う予定だ。前半はクラシックで後半はミュージカルの曲がメイン。佐賀は「必ず楽しんでいただける」と自信を見せる。 結成から15年。佐賀は「あっという間だった。駅前で路上ライブをし、投げ銭をもらっていたのがつい最近のことのようだ」と感慨深げだ。佐藤は「全員クラシックの出身だが、当時はプロデューサーの指示で日本民謡の『ソーラン節』からカンツォーネの『’O SOLE MIO(オーソレミオ)』、はたまたクイーンの楽曲まで歌った。『この曲で大丈夫?』と疑心暗鬼になっても、まずは路上でやってみる。路上は反応がすごくリアルで、興味がない人は過ぎ去っていくし、興味のある人は残っていく。お客さんが立ち止まってくれる曲だと自信が持てるようになり、安心してステージに立てるようにもなった」と話す。
復帰したステージで声を披露する佐賀龍彦=2022年10月、東京・かつしかシンフォニーヒルズ(キョードー大阪提供)
佐賀がインタビューの際、何度も繰り返した言葉がある-「病気になってよかった」。「病院ではリハビリに励むたくさんの患者さんが周りにいた。それを間近で見て、世の中には色々な人がいて、その一人一人に人生があることに気づいた。ステージ上でもこれまで以上にお客さんと向き合うようになった」と心境の変化を語る。
そばで支え続けた佐藤は、「佐賀は、感性が良くなり、昔だったら歌わなかったような曲も歌うようになった。技術的にはまだ取り戻している段階で本来の強い響く声ではないけれど、だからこそ柔らかい歌声になった」とも。 佐賀自身は「まだ70%の状態。周囲は『気にしなくていいよ』と声を掛けてくれるけれど早く良くなって迷惑を掛けないようにしたい」と控えめだ。そんな佐賀に佐藤は「正直、病気の前は突っ走り過ぎちゃう所があったから、自分1人では走れず、周りに頼るぐらいが佐賀はちょうど良い。病気はそういう意味でも良い変化をもたらした」と優しく笑い掛ける。
久々に全員がそろったLE VELVETS=2022年10月、東京・かつしかシンフォニーヒルズ(キョードー大阪提供)
「脳梗塞と戦うには、周囲にいる人の支えが重要だ」と佐賀は強調する。「リハビリは1人で寝て1人で起きる孤独な日々。私自身、待っていてくれるファンの人達がいなかったら続けるのは難しかった。本人は落ち込んでいるかもしれないけど、その人の人生に向き合って、『あの時、あんな苦しいことを乗り越えたよね。あれ、もう一回やってみようよ』などの声掛けをしてあげてほしい」と語った。 ◇ ◇ ◇ 「LE VELVETS 15th ANNIVERSARY Premium Symphonic Concert 2023」は東京芸術劇場で3月17日、京都コンサートホールで4月1日に上演される。
引用:時事通信
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