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脳にとって「最高の刺激」とは何か、脳の劣化を防ぐ秘訣

Mar 9, 2023

中国貴州省安順市の公園で太極拳をする中高年の人たち。太極拳のゆっくりとした動作は、あらゆる年齢の人のバランスを向上させ、脳を活性化させる。(PHOTOGRAPH BY LU WEI, VCG/GETTY IMAGES)

脳の健康は、その人がどのくらい長く生きられるかを示す最も有力な指標かもしれない。若いときから長く変わらずに充実した人生を送れるか否かは、脳の健康を保てるかどうかにかかっている。

車に優しい運転を心がけ、高品質のガソリンを給油し、定期的にオイルを交換し、消耗した古い部品を交換しながら乗った車は、乱暴に乗り、整備もしない車よりも長持ちするだろう。同じように、中高年の脳を健康に保つ最も簡単な方法は、心身に良い習慣を身につけることだ。

では、長年にわたり心身に良くない習慣を続けた人が脳の衰えを感じはじめたときにはどうすればよいのだろうか? 車なら、いつでもエンジンを乗せ換えられる。一方、私たちの脳には代わりがなく、基本的には、生まれたときに持っていたニューロン(神経細胞)と、特定の狭い領域に追加されたニューロンのみから構成されている。衰えはじめたニューロンを救い、より強くすることはできるのだろうか?(参考記事:「あなたの「本当の年齢」は? 老化の度合いはやはり顔でわかる」

独房か、学校か

アインシュタインの脳を調べた研究者としても知られる脳科学者のマリアン・ダイアモンド氏は、脳の働きを向上させるのに遅すぎることはないと確信している。その理由を説明しよう。

1960年代、ダイアモンド氏は実験用ラットの2つのグループを比較した。第1のグループは刑務所の独房のような環境に閉じ込め、生きていくのに必要な餌は与えるが、脳に刺激を与えるような遊びや訓練や仲間との触れ合いはさせなかった。第2のグループは小学校のような環境で飼育した。おもちゃやボールで遊ばせ、迷路を探検させ、筋肉やニューロンに十分な血液が送られるように運動をさせ、そして何より、仲間のラットと経験を共有させた。

そして、両グループのラットに同じ迷路を走らせてタイムを競わせたところ、心身を活性化させる環境で飼育されたグループのラットの方が、はるかに良い成績をおさめた。

ダイアモンド氏は続いて、人間を被験者とする実験ではできないことをした。勝者と敗者の両方を解剖して、脳を調べたのだ。より豊かな学習環境を与えられ、迷路通り抜け競争に勝利したラットの脳は、もう一方のラットの脳とは明らかに違っていた。彼らの大脳皮質(大脳の表面を覆うしわしわの層で、世界を理解するための神経回路がある部位)は、刺激の乏しい環境で飼育されたラットの大脳皮質に比べて、より厚みがあったのだ。

大脳皮質が厚くなったラットは、神経の結びつきが多かった。これは、精神活動が活発であることを示している。神経の結びつきがしっかり機能し続けられるのに必要な酸素を運ぶ血管の本数も多かった。ダイアモンド氏はそれまでの研究で、精神の活動が脳の物理的な状態に現れることを示す具体的な証拠を集めていた。運動が筋肉を鍛えるように、学習が脳を鍛えることは明らかだった。

ダイアモンド氏の研究には工夫があった。氏が実験で使ったのは、若いラットではなく、人間でいえば60〜90歳に相当する中高年のラットだった。つまり氏の研究は、老いたラットの脳にも新しい経験に応じて形を変える「可塑性(かそせい)」が備わっていることを示したと言える。

これはラットだけでなく、他の動物にとっても良い知らせだ。脳の構造は、すべての哺乳類で驚くほどよく似ている。マウス、イヌ、ウマ、サルに有効なものは、人間にも有効だ。ダイアモンド氏は、脳は何歳になっても変化しうるという自分の発見に安堵した。健康的な生活をすれば、高齢者の脳も(若者に比べて時間はかかるものの)良い方向に変化するのだ。「若者と同じように、脳は使えば変えられるのです」

いくつになっても変われる脳、脳の健康を長く保つために大切なこと

米フロリダ州ココナッツクリークのダンスフロア「ゴールドコースト・ボールルーム」で大晦日を祝うカップル。研究者は、高齢者の脳の健康を維持するためにできる活動の1つとしてダンスを挙げている。(PHOTOGRAPH BY ED KASHI, VII/REDUX)

時間に打ち勝つ

時間は脳に悪影響を及ぼす。加齢とともに脳が衰える道筋は3つある。病気、脳を使わなくなること、そして、加齢に伴う物理的な変化だ。

年をとるほどかかる病気は増え、その多くが脳を痛めつける。脳卒中では血液の供給が絶たれることで脳細胞が死滅するし、悪性腫瘍や認知症も脳に悪影響を及ぼす。

また、使われなくなった神経の結びつきは、弱くなり、やがて完全に切れてしまう。高校時代に必死に覚えた三角関数の公式を、卒業後は一度も使わないうちに忘れたり、対戦相手がいなくて何年も遠ざかっていたチェスの腕前が下がったりするのは、そのせいだ。

さらに、年齢を重ねると病気ではなくても神経回路の配線が劣化し、ニューロンが失われたり、残りのニューロンも、長年にわたってさらされてきた毒素やその他の化学物質の影響を受けやすくなったりする。

それでも、80歳や90歳、あるいはそれ以上の年齢になっても精神的に健康な高齢者がいる。健康な高齢者の脳は、若者に比べて情報処理速度こそ遅いものの、ひとたび学習したことは宝物のように保たれ、繰り返し利用することができる。

新しい経験をするたびに脳は物理的に変化する

高次の思考に関与する部位だけでなく、脳のすべての部位は、何歳になっても刺激的な挑戦によって向上することができる。バランス感覚を高めたい人は、30歳でも90歳でも、太極拳を始めるとよいだろう。「Wii Sports」でボウリングをすれば、高齢者でも10代の若者と同じように、目と手の協調性や集中力を高められる。(参考記事:「鳥を見たときにあなたの脳で起こること、野鳥の効能とは」

実際、高齢者の運動は運動能力を高め、転倒のリスクを減らし、認知症を予防できる可能性もあることが分かっている。高齢者には、それなりの強度の運動を週3回、20分以上行うことが推奨されているが、米国では65〜74歳の8人に1人、75歳以上では16人に1人しか、そうした運動をしていないという。

脳の可塑性の研究からは、脳の驚くべき構造について、多くのことが明らかになっている。脳は数十億個の独立したユニットからなり、それらが非常に複雑なシンフォニーを奏でながら、世界を理解し、情報を処理・保存・検索し、そうした情報を駆使して世界との関わり方を決定している。新しい経験をするたびに、あなたの脳は物理的に変化している。この文章を読み終わるとき、あなたの脳は、読みはじめたときとはわずかに違っているはずだ。

慣れ親しんだ経験を繰り返すことも悪くはない。昔から好きな曲をギターで弾く練習をすれば、脳が変化し、上手に演奏できるようになるだろう。しかし、脳にとって最高の刺激となるのは「新しさ」だ。これは年齢を問わず当てはまる。

ラットにカラフルなおもちゃをたくさん与えても、しばらくすると飽きてしまう。こうしたおもちゃで遊んでいても、使い古された神経回路に同じ刺激を受けるだけで、新たな刺激にはならないからだ。年齢に関係なく、新しい体験(や新しい学習方法)は脳に新しい神経の結びつきを作らせ、脳を鍛える。そして、脳の神経の結びつきが多ければ多いほど、加齢や病気による変化に耐えやすくなる。

引用:NATIONAL GEOGRAPHIC
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