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「とりあえず3年」働いた25歳彼が結局辞めた訳 安定した仕事に就いたはずが、想定外があった

Feb 15, 2023

大学・就職後と「仕事」への迷いを抱えながら、理学療法士として3年働いた窪塚明良さん(仮名・25歳)。消化不良だった趣味に打ち込み、もう一度自分の道を探します
20代半ばから30代に訪れるとされる「クォーター・ライフ・クライシス」(以下QLC)。一人前の大人へと移行するなかで、仕事、結婚、家庭などなど、自分の将来の生活や人生に対して「このままでいいのか?」と悩み、漠然とした不安や焦燥感にさいなまれる時期のことを指す。
もともと2000年代前半にイギリスの研究者たちが用いるようになった言葉だが、日本の若者たちの関心も集めつつあり、SNSやブログで自身の心境をつづる人も。
そこで、本連載では性別職業問わず、さまざまなアラサーたちに取材。それぞれのQLCを描きながら、現代の若者たちが味わう苦悩を浮き彫りにしていく。今回は「理学療法士として勤務して3年になる病院を近々退職し、日本一周の旅に出る予定です。現在、QLC真っ只中です」と語る、窪塚明良さん(仮名・25歳)のケースを取り上げる。

適職診断がきっかけで目指した道、だったけど…

窪塚さんは高校生の頃から理学療法士を目指し、地元の大学を卒業後、他県の病院に就職した。

理学療法士という仕事を知ったのは、高1の頃に学校で受けた適職診断がきっかけ。いつしか理学療法士になることが当たり前のように自分の目標になっていたそうだ。

「理学療法士の仕事について調べるうち、医療職なら将来も安定しているということもあって、完全にその気になっていましたね。僕が高校を卒業する年に実家から通える近所の大学に理学療法士になれる学科が新設されるという話も偶然あり、そこでも勝手に運命的なものを感じていました」

しかし、進学したのが医療系の単科大学ではなく総合大学で、文系・理系を問わず他学部の学生と交流しやすい環境だったこともあり、理学療法士を一生の仕事として考えてきた自分の進路について、すぐに疑問が芽生え始めたという。

「自分の将来については正直4年間ずっと迷っていました。大学3年~4年にある実習に向けて、授業やテストに追われている医療系の学部生は少数派で、一言で言えば視野が広がって興味が移り変わったというか。とくに学生時代は友達と登山したり、湧水や名水スポットを巡ったり、車で自然豊かなところを巡ることにハマって。自然に関わるような仕事はないか、よくネットで調べたりもしていました」

迷いを抱えながらも時の流れは止まることなく、病院で臨床を学ぶ計5カ月間の実習では病院での仕事を経験。実習後から卒業までの約半年間も卒業研究や就職活動、国家試験など、目の前のやるべきことに精一杯の日々を送ったようだ。

そのすべてをなんとか無事にクリアし、卒業後は実習でお世話になった病院に就職する。

「実習先でも正直に『この仕事をしたいかよくわからないです』と伝えちゃったんですが、『実際に働いてみないと、わからんやろ』と言われ、それは確かにそうだなと。卒業まで残り半年ほどという焦りもありましたし、実習先だった理学療法士の職場は雰囲気もよかったので、とりあえず3年間を目標に働いてみることにしました」

生半可な覚悟では続けられないことを実感

興味を持ったきっかけがなんであれ。最初の志望動機が強かろうが弱かろうが、働き始めれば、仕事のパフォーマンスや働きがいには実際のところあまり関係ない。

「昔は理学療法士という職業自体の知名度が低く、医療職の中でも過去にケガなどでリハビリを受けた経験から目指す人が多かったんですが、今はそういう状況も変わってきているようです。

僕自身も理学療法士にお世話になった経験はないんですけど、そこで周りと比べて気にしたことはないですね。『そんな自分でもやればできる』という感覚が、むしろ強かったです」

しかし、窪塚さんが学生の頃からの「理学療法士の道が自分のやりたいことなのか」「この先もずっとこの仕事を続けられるか」という違和感は、結果的に払拭されることはなかった。“とりあえず3年”が折り返しに入った頃には退職する決意を固めたという。

「当たり前と言えば当たり前の話ですけど、目の前の患者さんに対応するには高度な知識や技術が求められるし、厳しい世界で甘くない仕事なんですよね。誰に対しても一応はちゃんと働いたと言えるように、“とりあえず3年”と大学4年の段階で決めて働き始めて、実際に無我夢中で働いてきましたが、僕にはこれ以上、この仕事に注ぐエネルギーはないと痛感しました」

自己研鑽が求められ続ける業界の事情も

「職場には理学療法の世界でもけっこう有名な人がいて、就活では純粋に尊敬もしているので今の職場を選んだ面もあるんですが、一緒に働いていると余計に自分の熱意はないなと感じます。このまま働き続けてもモヤモヤを抱えて中途半端な気持ちで仕事に取り組んでしまう気がしますね」

プロフェッショナルの働きぶりをみて、自分はそこまで一流に徹し切れない(あるいは、それほど徹したくもない)と思った経験は、何かを志したことのある人なら誰しも一度や二度するものかもしれない。

他人の健康を預かる仕事の性質上、一般企業とはまた違う大変さもある。理学療法士の質の高い仕事は個人のやる気や責任感に寄るところも大きいらしく、“食うための仕事”として割り切って働き続ける選択肢も窪塚さんは持てないそうだ。

「いろんな職種・業界で言われがちなことだとは思いますが、理学療法士の仕事は専門性の高い業務のわりに給料が見合わないと一般的に言われていて。私は入職した時期がコロナ禍だったのでオンライン研修も多かったんですが、本来は現地で教わって技術を習得する必要があり、自己研鑽として自分で実費や時間を捻出して研修を受けないといけないんです。僕は参加していませんが、中には東京で数日間滞在するような研修会もあり、参加した人を見ていると結構な負担になっていそうです」

加えて、景気に左右されない医療職の安定感も高校時代に理学療法士を志した理由の1つとして挙げていたが、実際はそこまで楽観的に安泰とは言い切れない現実もあると語る。

「実は理学療法士を育成する学校ってどんどん増えていて、業界的には人材の供給過多が指摘されてきているんです。だからこそ理学療法士として今後生き残っていくために、自己研鑽が大切なんですが、そこまでの熱意を僕は持てないのが正直なところです。

患者さんと1対1で向き合うコミュニケーションも含め、現場での仕事自体が嫌いなわけでは全然ないです。むしろ、適切な治療ができれば人間の機能障害を改善することができ、その変化を目の前で患者さんと共有ができる、とてもやりがいのある職業だと思います。ただ、自分がこの仕事を続けていく必然性みたいなものを考えると、『別に自分じゃなくてもいいのではないか』と思ってしまって。同業者から見れば逃げかもしれませんが……。

個人的には病院の仕事ってけっこう狭い世界だなとも感じていて、残りの仕事人生をここで終えたくないし、ここ数年はいつももっといろんな仕事してみたいなと考えてきました」

高校1年の頃から理学療法士として働くことを目標に、着実にそのコマを進めてきた経歴だが、その心のうちは本連載の登場人物らしい混乱ぶりだ。

すでに職場にも今年じゅうには退職することは伝えており、その際に、信頼を寄せる上司が「好きなことを追求していきたい」という姿勢に賛同してくれたことも背中を押した。退職後は旅館や農家の仕事を手伝いながら宿泊できるサイト「おてつたび」などを利用しつつ、まずは車で日本一周する予定とのことだ。

消化不良だった趣味を通じ、今後を真剣に考える

学生時代に友人と登山したり、湧水や名水スポットを巡ったりしていたことは先程聞いたが、それにしてもまた随分と思い切った構想に思えるのだが……。

「とくに一昨年くらいからは1人登山にどハマりしていて。本当に毎週のように登っているんですが、ついに47都道府県を登山しながら『名水百選』のような有名な湧水スポットを1~2年かけて巡る計画を立ててしまいました。

1人で登山をしていると、いろんな人と仲良くなるんですが、そこでの会話がとても刺激的で、そこでも自分がこれまで関わってきた人間関係や世界がいかに狭いのか思い知らされているところです。日本一周や47都道府県制覇って、やりたくても一生やらない人がほとんどですけど、せっかくなら僕はやってみたいなと」

大学時代には、すでに湧水に興味を持っていた窪塚さん。しかし、違和感を感じながらも就職のための勉強に追われていた窪塚さんは心ゆくまま打ち込むことができず、消化不良に。3年の時を経て、今後の人生の歩み方や、次の職業選択にも影響を及ぼしているようだ。

とはいえ彼のように、実際に社会に出て働いてみたことで、自分の本当の興味関心を知るという人は少なくない。好奇心が人一倍強く興味の幅も広い窪塚さんの場合、3年間働いたタイミングで、この際とことんやってみたほうがいいかもしれない。

理学療法士を辞めて、次の仕事は?

なお、本人は理学療法士として復帰するつもりは今のところ考えていないそうだが、医療系の職種は転職も比較的しやすいイメージもあるが……。

「日本一周しながら趣味で続けるだけでも満足できるのかも含めて、自分の好き度を検証できればいいなと思っています。

もし飽きそうならまったく別の仕事をしてもいいし、飽きそうになければ何かしら水や山といった自然に関わるような仕事を真剣に考えたいです。ネットとかで調べても、これだと思えるような具体的な仕事は全然わからないんですが」

世間では一度決めた目標を貫徹することが正しいとされがちだが、昨日までの目標や夢に執着して縛られる必要はない。そもそも今の時代に10年後、20年後の自分の姿や目標を具体的に思い描ける人がどれだけいるだろうか。

さまざまな出会いや経験を通じて、柔軟に修正を繰り返すマインドで、窪塚さんにはQLCを乗り越えてもらいたいものだ。

引用:東洋経済オンライン

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