VRを使った「仮想空間リハビリ」で常識が変わった、最新機器を体験

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VRを使った「仮想空間リハビリ」で常識が変わった、最新機器を体験

Nov 12, 2022

mediVRカグラによるリハビリは、ヘッドセットを装着し、両手に持ったコントローラーで仮想空間の目標物に触れたり落下物をキャッチしたりする。この動作を繰り返すことで身体機能が向上する 写真:mediVRカグラ

 

VRを用いたリハビリが注目を集めている

脳梗塞や脳出血になると、まひが残る場合が多い。リハビリで回復を目指すのが標準治療だが、症状によっては医師から「改善は難しい」と通告される場合もある。そうなると、患者は不自由な体のまま退院後の人生を送らねばならない。

しかし、こういった常識はすでに過去のもの。リハビリは日々進化を遂げている。中でも注目を集めているのが、VR(バーチャル・リアリティー)を使用する方法だ。

仮想空間で行うリハビリとは、一体どんなものなのか。先進事例のひとつ、リハビリ用医療機器「mediVRカグラ」を使ったリハビリを取材した。

訪れたのは、大阪・豊中市にある「mediVRリハビリテ―ションセンター大阪」。この施設では、mediVRカグラを活用したリハビリを行っている。

早速、リハビリを体験させてもらった。

まずは椅子に座り、専用のヘッドセットを装着。視界にはアニメーションが映し出されている。両手にコントローラーを持つ。理学療法士や作業療法士(セラピスト)、医師の「右上」とか「左下」といった指示に従って手を伸ばし、落下するボールを捕まえる。うまくキャッチできたら効果音が流れ、コントローラーが振動、目の前に「あっぱれ」という文字が表示される。まるでゲームをしているような感覚だ。1回20分で終了した。

病気になると脳の情報処理がうまく機能しない

この訓練を定期的に繰り返すことで症状が改善していく。中には1回で効果が表れる患者もいるという。にわかには信じられないが、治療法を開発した株式会社mediVR代表取締役社長・原正彦さんに詳しく話を聞いた。

なぜ、VRに着目したのか?

「人間は目に見える様々な映像を脳で処理しながら日常生活を送っています。ところが病気にかかると、その情報処理がうまく機能しなくなります。疾患とは言うなれば『脳と体の情報処理過程の異常』なのです。私はそこに着目しました。脳を再プログラミングすることで、正常な状態に近づけ、心身の機能を取り戻せると考えたのです」(以下、原さん)

原さんは、大阪大学医学部附属病院循環器内科で学位を取得した現役の医師である。自身の研究成果を社会で活用してもらうために、2016年に大阪大学発ベンチャーとして株式会社mediVRを設立した。

「従来のリハビリは、患者さんの目から入る情報量が多過ぎると考えました。例えば、他の患者さんの様子が気になったり、自身の体が見えることで感覚を研ぎ澄ますことが困難になると考えました。しかし、カグラはヘッドセットを装着することで外界からの視覚情報の入力が制限されるため、余分な情報が一切入ってこないのです。これが効果的なリハビリを実施する上でとても重要なポイントとなっています」

カグラの基本ゲーム画面に映る映像は、どれも背景がシンプルである。そのため、患者が情報を処理する負荷が低く、眼前のゲーム内で自身の体を使いこなすことに集中することができる。その結果、次第に脳の情報処理機能が活性化され、失われた機能が回復していくのだという。

リハビリは必ず座位で行う。座った状態でコントローラーを握った手を交互に伸ばすと、体幹が鍛えられ、歩行に必要なバランス感覚や、重心移動のコツをつかむことができる。また座位なら転倒のリスクが低く、歩行が難しい患者でも安全に行える。ゲームは現在5種類あり、患者の状態に応じて、落下物の距離や高さ、角度などを調整できる。

「カグラを使ったリハビリでは、目標物の座標位置を患者さん自身が強く意識する必要があります。このことにより患者さんの自発性が引き出され、内発的動機付けが形成されるのです。さらに目標動作がうまくできたときに視覚、聴覚、触覚を刺激することで、『体をどのように動かせばよいのか』を脳が効率的に再学習して機能が回復していきます。簡単に説明するとこういったプロセスで脳の再プログラミングを行っているのです」

「成果報酬型」の支払い体系で患者の不安を払拭する

実際のリハビリ現場も取材した。

40代の男性会社員Aさん。5年前に脳出血を起こし、右半身にまひが残ってしまった。昨年12月から週に2回ほどカグラでリハビリを行っている。

最初は手を伸ばすこともできなかったが、訓練を続けた結果、今では見違えるほどスムーズに動かすことができるようになった。担当の理学療法士・岡田拓巳さん、鳥飼悠基さん、作業療法士の村川唯さんは「驚くほどの回復力です。できることが次々と増えています」と成果を話してくれた。

1回のトレーニングで効果が出たケースを紹介しよう。左の大腿骨を骨折したこちらの女性。89歳という高齢だが、手術から5日目にリハビリを行うと、歩行速度が格段に速くなっている(詳細はこちらの動画を参照)。

カグラは2019年3月に販売を開始。現在、大学や病院、介護付き老人ホーム、デイケアなど全国47の施設に導入されている。昨年11月に大阪にmediVRカグラを活用したリハビリを受けられる専門施設を開設。この10月には東京にも施設を開設した。

ちなみに「カグラ」という名称は、神社で行う「神楽」が原点で、リハビリ中の患者の動きが神楽の舞を連想させることから名付けられた。

このリハビリ専門施設には、一つユニークな特徴がある。

それは支払いが「成果報酬型」である点だ。リハビリの開始時に患者とセラピストが一緒に目標を設定する。例えば「椅子から一人で立ち上がれるようになる」「歩行器で歩けるようになる」など。それを達成した場合に報酬を支払う仕組みになっているのだ。万が一目標を達成できなかった場合、報酬は必要ない。

「少しでも良くなる可能性があるなら、医療保険・介護保険の枠組みを超えてでも試してみたい。しかし、お金と時間を費やしても変わらなかったら…という不安を患者さんは抱いています。その不安を払拭するために成果報酬型を導入しました」

VRを使ったリハビリで重要な役割を担うのは、患者を支えるセラピストの存在だという。機器の効果を最大限に引き出すために、理学療法士、作業療法士などが患者の動きや体の状況、認知機能を十分に把握し、疾患種別や目的に応じて動作の難易度を細かく調整しなければならないからだ。今後はセラピストの育成にも力を注いでいく方針である。

現在13の特許を持つmediVRカグラ。経済産業省主催のジャパンヘルスケアビジネスコンテストでグランプリを受賞するなど国内外から注目を集めている。また、脳梗塞や脳出血だけではなく、パーキンソン病、認知症、慢性疼痛(とうつう)、脊髄損傷、脳性まひ、発達障害、うつ病、抗がん剤関連の副作用をはじめ数多くの効果が実証されている。

大きな可能性を秘めたVR技術を使ったリハビリ。近い将来、医療の常識を大きく塗り替えるのは間違いないだろう。

(吉田由紀子/5時から作家塾(R))

引用:DIAMOND

 

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