言葉や聴覚に障害がある人のコミュニケーション能力の回復訓練に加え、摂食や嚥下(えんげ)のリハビリも担う専門職の言語聴覚士(ST)。長崎県島原市津吹町のST、大場章夫さん(38)は15年にわたり、医療や介護の現場で培った経験をまとめたエッセー集「食べる大切」を出版した。
千人以上の高齢者らの食事介助に携わった中で感じた思いや現場への提案をつづっている。 同市出身。高校時代、弁論部に所属した経験から、言語学やコミュニケーション、障害児教育に興味を抱いた。進路を考える中でSTの存在を知り、大村市の専門学校に進学。2006年、STの国家資格を取得し、雲仙市などの病院で昨年末まで勤務した。 「飲み込みのリハビリ」ともいわれるST。脳卒中などの影響で、発語や食べ物の飲み込みに障害がある人をサポートする。 同書は「食べる事と倫理」「食事介助で気を付けたいこと」など全7章。同じ国家資格の理学療法士や作業療法士と比べ、認知度が低く、従事者数も少ないSTの啓発につなげようと、5年ほどかけて執筆した。 「好きなものを口から食べるという人間にとっての生きがい。この欲求を満たしながら長生きできれば、これ以上の幸せはない」。こう強調する一方で、飲み込みに障害がある人に対し、「食べる」行為を続けさせ、食事介助の支援を続けるべきか。このような問題に直面し、葛藤しながら医療や介護の最前線で勤務した日々を記した。 医療の現場では、体力や意識状態が低下した患者の誤えん性肺炎を避けるため、口から食べられなくなった人の腹部に穴を開け、チューブで胃に直接栄養を送る「胃ろう」が選ばれる場合がある。反面、おいしいものを食べることで生活の質(QOL)を維持しながら介助しようと、できる限り経口摂取にこだわる考え方もある。それぞれの患者にとって、より良い選択をするための模索が続く。 胃ろうの選択には賛否両論がある。「できる限り飲み込みのリハビリを続け、好きなものを食べさせてあげたい」。それぞれの状態に応じて、メリットとデメリットをてんびんにかけて、総合的に判断する必要があると考えている。 患者にとっての人生最後の食事に立ち会うことが多い中で、やりがいを感じる場面もある。「(胃に挿管した)チューブから解放され、少しずつ回復し、笑顔を見せる患者さんの姿を見るのが、何よりうれしい」 同書では長年、胸に秘めていた悩みや葛藤も赤裸々に明かした。「医療・介護の分野でとても大切な仕事を身近に感じるきっかけにしてほしい。患者と向き合う家族や医療関係者らが、食べることを見つめ直すきっかけの一冊になったら」と話す。 ゆるり書房刊。四六判、119ページ。1485円。千部発行。アマゾンやTSUTAYA島原店などでも販売している。
引用:長崎新聞社
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