近年、韓国などアジアの一部の国では日本を上回るスピードで高齢化が進んでいます。少子高齢化が医療に突きつける問題を解決するためには、共通課題を抱える国がお互いに協力し、知恵を出し合いながら対策を講じていく必要があります。今回は、アジア慢性期医療協会理事長/IMSグループ会長の中村哲也先生に、アジア全体が抱える医療課題についてお話を伺いました。【全2記事の1】 ※本記事は、日本慢性期医療協会との連載企画「慢性期ドットコム(https://manseiki.com/)」によるものです。
日本で始まった少子高齢化は、今や韓国や台湾、中国などアジア全体に広がってきています。こうしたアジア共通の問題に対処すべく、2011年7月に設立されたのがアジア慢性期医療協会です。高齢者の増加に伴い重要性が高まる「慢性期医療*」の質の向上を目的に、日本慢性期医療協会と韓国慢性期医療協会の合意により設立されました。2022年現在では中国慢性期医療協会も加入しています。 看護や介護の担い手不足、医療崩壊の恐れなど、少子高齢化が招く問題はアジア共通ですが、その解決方法は国によって違います。同じアジアでも文化や思想、生活様式などが大きく異なるためです。日本人の思考ではどうしても解決できなかった問題を、他国ではすでに別の視点で解決していることが往々にしてあるのです。アジア慢性期医療協会を通じて各国が情報交換することで、今までにない新しい解決方法を模索していきたいと考えています。 *慢性期医療:急性期治療を完了した、あるいは在宅療養中に状態が悪化した患者さんに対し、継続的な治療とリハビリテーションを行うことで在宅復帰を目指すもの
日本はアジアの中で最初に高齢社会を迎えましたが、アジアの他国に比べると比較的ゆっくりと高齢化が進んできました。そのため自国の産業として、車椅子や杖など高齢社会の産業を育てていく時間が十分にありました。 一方、韓国では日本を上回るスピードで高齢化が進行しているため自国の高齢者産業が成り立っておらず、製品開発も進んでいないのが現状です。ゆえに韓国では日本の医療製品に高い評価が集まっていますが、電化製品に代表されるように韓国には韓国のよさや強みがあります。いずれ韓国からも素晴らしい高齢者向け医療器具が多く出てくるでしょう。ですから、日本は自国の製品がいつまでも世界トップであるとあぐらをかかず、積極的に情報交換を行いながら切磋琢磨(せっさたくま)していく必要があると考えます。
江戸時代に小石川療養所がおかれていた小石川植物園
慢性期医療に対する認識は国によって違いはありますが、日本と韓国は慢性期医療に対する考え方がおおむね同じです。日本は「療養までが医療」という考え方が江戸時代から浸透しており、それは小石川養生所(徳川幕府が設置した療養施設)が果たしていた役割からも伺えます。当時、江戸の病人は小石川養生所が引き受け、回復するまで何カ月間も療養させていました。養生所では薬草が育てられており、生薬として病人の治療に使われていました。つまり日本は歴史的にみても、急性期治療が終わったばかりの患者さんを家に帰すという考えはなく「慢性期医療」という考え方が自然と社会に身についていたのです。 一方で中国の医療は中医学(中国伝統医学)がベースにあり「病気は徐々に進行し、徐々に治していく」という考えから、慢性期・急性期などと厳密な線引きがありません。日本や韓国以外のアジア・欧米諸国では「医療=急性期医療」と捉える国が多く、急性期治療後の社会的なサポートが脆弱(ぜいじゃく)です。そのため、たとえばリハビリテーションを行う施設は自力で探さなければならず、自力で何とかできない人は社会的に見放されてしまう傾向があります。 慢性期医療という考え方が根付いている日本では、そうした人々を救うための社会インフラがきちんと整備されています。そしてアジア諸国は日本を見習い、慢性期医療の重要性を見直し始めています。そうした各国の認識の変化を見ることで、やはりこれからの社会には慢性期医療が必要であることを私自身も再認識しています。
少子化が招く看護や介護、リハビリテーションの担い手不足に対して、人材をいかに育成していくのかはアジア全体の共通課題です。解決方法としては、ロボットなどの機械に委ねる、看護や介護の担い手となる移民を受け入れるなどが考えられます。 日本には出入国の管理のみを行う入国管理局(2019年から出入国在留管理庁に名称変更)しかないため、移民を受け入れる場合には移民局を作ってしっかりと環境整備をしていく必要があるでしょう。少子化が招く医療問題を解決するためには、国が柔軟に変化していくことも求められると考えます。
アジア慢性期医療協会では、これまでオフラインでの学会活動を定期的に行っていましたが、現在は新型コロナウイルス感染症の影響で開催できていません。最近になってようやく、Webのビデオ会議で韓国慢性期医療協会の会長と話をすることができました。新型コロナウイルス感染症への対応方法など最新の情報交換ができましたし、オンラインを活用した活動は引き続き継続していきたいと感じた次第です。また韓国は慢性期医療協会のCEO(Chief Executive Officer)会を立ち上げ、各病院の院長や理事長などトップが集って交流を図っていると聞きました。各協会がさまざまな取り組みに努めているので、これからも積極的に情報交換を行い、アジア慢性期医療の未来を一緒に考えていきたいと思います。
引用:Medical Note
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