「ミールラウンド」という言葉をご存知だろうか? 介護施設で食事がしっかり摂れているか専門家がチェックするもので、最近、これを取り入れる施設が増えてきている。さらにミールラウンドに「言語聴覚士」を起用し、力を入れている施設もある。実際に施設でミールラウンドを行っている担当者に話を聞いてみた。
「ミールラウンド」とは、介護施設などで利用者の食事の様子を観察する取り組みのこと。看護師や管理栄養士、歯科医などがチームを組んで、高齢者の食べる様子を観察しながら、咀嚼能力、嚥下機能、口腔機能などを判断する。
例えば、なんとなく食が進まない、食べにくそうにしている人がいた場合、その理由や問題点を探し、解決に導いていくのが「ミールラウンド」の取り組みだ。
各分野の専門家が利用者の食事を観察して原因を多角的に分析し、利用者食べる能力を引き出していく。食事の適切なサポートを行うことで、栄養状態が向上して体力が回復する事例も。食事を楽しめるようになるとコミュニケーションや笑顔が増えるため、認知症の予防に役立てる目的もあるという。
この「ミールラウンド」を実施した施設には、介護報酬が加算されることもあり、ここ数年で積極的に取り入れる施設が増えてきている。
「ミールラウンド」にかかわるスタッフは、歯科医師や看護師、管理栄養士が一般的だが、中には「言語聴覚士」を起用し、力を入れている介護施設も登場している。
国家資格である「言語聴覚士」は、「話す」「聞く」「飲み込み」といった機能のリハビリを担うスペシャリストだが、「食べる」行為に関しても重要な役割を担っている。
具体的にどんな役割を果たしているのだろうか? 有料老人ホーム『ヒルデモア/ヒュッテ』でミールラウンドを行っている言語聴覚士のはやしりかさんにお話を聞いた。
「ミールラウンドは、ご入居者ひとりひとりにとって何がベストなのかをチームで考えていくという、治療とは異なる側面をもつ仕事だと感じています」と、はやしさん(以下同)。
ミールラウンドにおける言語聴覚士は、飲み込みが困難な人に対して原因を探り、対処法を提案し、機能の維持・回復を目指している。
「ミールラウンドは、ホームの規模に応じて週1回から月に1回のペースで行っています。普段通りの食べる様子が知りたいので、まずはさりげなく見て回ります」と、はやしさん。
「食べづらそうにしている方がいらっしゃった場合は、まずは近くで食事をしている様子を観察します。まずはじめにチェックするのは、ちゃんと噛めているか、むせていないか、スムーズに飲み込めているか、といった項目です。
しかし、食べづらいのはこのほかにも原因があるのかもしれません。義歯が合わないのかもしれないし、食べる姿勢に問題があるのかもしれません。そこで言語聴覚士の私の意見だけでなく、口腔内のことなら歯科衛生士、姿勢のことなら理学療法士や作業療法士など、社内でともに働く専門家たちと考えられる原因を話し合い、現場で働くスタッフに伝え、食事の内容をその方に合うように調整していきます」
「脳梗塞を患って入院先から当ホームに入所された80代の女性のご入居者がいらっしゃいました。
入院中は、口から食べられず、胃ろうで栄養を摂取していました。ご家族からは、飴でもよいので、何か食べ物を味わって欲しいとの希望が寄せられました。
そこでホームの多職種スタッフによるチームで退院後の暮らしについて検討しました。最初は、口腔内を氷で刺激するリハビリを行いました。珈琲がお好きだと伺ったので、珈琲の味や香りがする氷を作ってリハビリに用いたところ、嬉しそうな笑顔を浮かべていらっしゃいました。
さらに、音楽療法士が演奏するピアノを聴いたりすることで少しずつ五感を取り戻され、以前よりグッと笑顔が増えて、表情も生き生きしてきました」
経口摂食(口から食べること)は、生きる意欲につながる大切な行為だ。
「口から食べることは、食べ物の味や香り、見た目、手触り、噛む音や会話といった五感が刺激され、人を幸せな気持ちにしてくれると思うんです。
“食べること”をサポートすることで、ご入居者に生きがいや幸せを感じてもらえたらいいなと思ってこの仕事を続けています」と、はやしさんは語る。
食べることは生きること。食べる楽しみを長く続けてもらうためにも、介護施設を選ぶときはミールラウンドの取り組みに注目してみてはいかがだろうか。
言語聴覚士・はやしりかさん
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