「東京オリンピック・パラリンピック大会のスポーツ医学、医療のレガシー」をテーマにした、「東京医科歯科大学スポーツサイエンス機構シンポジウム2022」が3月16日、オンラインで開かれた。
選手村総合診療所(ポリクリニック)の所長を務めた柳下和慶・同大学スポーツ医歯学診療センター長をはじめ、選手村で診療にあたった同大の泌尿器科、放射線科、精神科の医師が報告したほか、アスリートの立場からオリンピック女子100メートルハードル日本代表の寺田明日香さんがスポーツ医療への期待や要望を語った。
柳下氏によると、選手村総合診療所には内科、整形外科、救急など約260人の医師・歯科医師と、看護師など約540人のコメディカルが携わった。主に理学療法や整形外科などを受診する選手らが多く、オリンピックでは8500人余り、パラリンピックでは5200人余りを診たという。新型コロナの流行下で、医療者の確保にも苦心したほか、感染対策に厳しい対応を余儀なくされた大会だった。
コロナ禍の影響は、選手らへの精神面にも影を落とした。精神科での診療を報告した高木俊輔医師によると、オリンピックで8人、パラリンピックで2人の患者があり、うち9人はストレスなどによる適応障害との診断だった。選手村に入れずにホテルで隔離中だった人に対し、オンラインで診療したケースもあった。
もともと「アスリートは健康的で明るい」などのイメージを押し付けられやすいうえ、けががきっかけでメンタル面の不調を招くケースや、つらくても我慢して受診を控えがちなど、アスリート特有のメンタルヘルスの問題は大きいにもかかわらず、スポーツ医療における精神科の割合は小さいという。同大学病院では新たに「アスリートメンタルケア外来」を設け、4月から本格的にスタートする予定だ。
シンポジウムではまた、東京パラリンピックで初めて設けられたという泌尿器科による排尿障害や尿路感染症への対応や、放射線科医の中でも専門家が少ないという骨や筋肉など骨軟部の画像診断の実践報告がされた。
アスリートの立場からスポーツ医療に期待することを問われた寺田さんは、アスリートがいったんケガをしてしまうとメンタル面の状態も下がるうえ、すぐに復帰するのも難しいことから、まずケガを「予防」するための医療の大切さを強調した。
そのうえで、ケガが治ってリハビリを終えると医療とは関係が切れてしまうことから、治療後も医療者とトレーナーが連携してアスリートをサポートする態勢があると、選手のレベルアップにもつながっていくのではないかなどと述べた。さらに、生理のことをはじめ、どこに相談していいか分からない女性アスリートも多いといい、若い世代が相談しやすい「窓口」をつくってほしいと訴えた。
(田村良彦 読売新聞専門委員)
出典:ヨミドクター
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