高齢者や身体の不自由な人の暮らしを家族や医療関係者らと連携して支援する介護・福祉業界。高齢化で利用者が増え、重要性が高まる一方、肉体的にも精神的にも負担の大きい仕事のイメージから深刻な人材不足に悩まされる。業務の効率化やストレスを緩和する環境作りが業界の課題となるなか、迅速で気軽なコミュニケーションを可能にするビジネスチャットの活用が広がっている。35万社、400万ユーザー以上を誇る(2022年1月時点・自社調べ)「LINE WORKS(ラインワークス)」は、LINEでなじみのある使いやすさや連携の広げやすさで、介護・福祉の現場の働き方を変え始めている。
「臀部に表皮剥離(はくり)があると報告を受け、手持ちの軟膏(なんこう)とカットバンで処置して様子を見ることにしました。ホームヘルパーさん訪問時、洗浄して上記の処置をお願いします」
「分かりました。ありがとうございます」
宮城県東部を中心に訪問看護や訪問介護などのサービスを提供するひまわり在宅サポートグループ(石巻市)。各事業所がLINE WORKS上に作ったトークルームで、所属する看護師やヘルパー(訪問介護員)が刻々とやり取りを交わしていた。県内11カ所に展開する事業所の職員全178人の1日のやり取り総数は平均約1400に上るという。グループの経営を担う若林陽盛在宅部長は「同じ利用者を担当する看護師やヘルパー、ケアマネージャーとささいな変化でもすぐに情報を共有し、連携できる」と説明する。
石巻健育会病院から派生したグループは医療と連携した訪問看護・介護など包括的なケアを展開し、利用者は約1500人(2020年4月時点) に上る。看護師やヘルパーは日中、個別に利用者の自宅を数カ所回って仕事するため、利用者が重なる担当者にとどまらず、上司や同僚とのコミュニケーションの機会も限られる。若林さんは「訪問先ですぐに相談できる相手がいない状態で、孤独や不安を抱えやすかった」と振り返る。
例えば、利用者の急な変化への対応に迷うと上司や先輩に相談したいが、電話は連絡が付くかが分からないうえ、口頭でやり取りしても「言った、言わない」の齟齬(そご)を生むケースがあったという。自身も現場経験のある若林氏は、職員の働き方への満足度が良いサービスに還元されると考え、孤独や不安の解消を目指して18年にLINE WORKSの導入を決定。事業所別にトークルームをつくり利用者宅でもスマホから情報を送り、所内全員に共有して素早い返信が期待できる環境を整えた。
若林氏は「文書や写真、動画を送ることで客観的に判断できる。みんなのやり取りを『見える化』することで、職員の不安や摩擦など負の感情もなくなった」と実感する。LINEユーザーとつながる「外部トーク連携」機能で利用者の家族との連絡にも使うほか、メールでは難しい職員同士のペット自慢など息抜きの投稿も交え、職場の雰囲気作りにも活用。結果、職員を対象にした働き方の満足度調査(5点満点、※1)で「情報連携」の項目は導入前の平均2・9点から、導入後に4・1点に上昇した。
(※1)18年4~7月の期間にグループ職員162人が回答。
介護業界では報酬制度改定でもICT活用が後押しされ、ケアマネの基本報酬はICT活用などを条件に1人当たりの担当件数が「45件以上」へ基準が緩和された。若林氏は「基準緩和で待遇改善を実現するには、ビジネスチャットの活用などによる業務負担の軽減が不可欠だ」と指摘した。
介護職員がすすめるツール1位(※2)LINE WORKSとは
(※2)2021年7ー8月期 日本マーケティングリサーチ機構調べ(回答数:7315人)
介護労働安定センターの2019年度の実態調査によると、業界で働く人の悩みや不安、不満として身体・精神的な負担とともに、「人手が足りない」「仕事内容のわりに賃金が低い」が上位に挙がった。業務の効率化や待遇の改善を迫られる業界のなかで、人材を引き付けて急成長を遂げている企業がある。介護・福祉機器のレンタル・販売を手掛けるイーライフ(横浜市)だ。
神奈川県の藤沢駅から車で約10分の住宅街に位置するイーライフ湘南営業所。20年12月にオープンした同社4カ所目の真新しいオフィスに入ると、「緊急!!」と銘打ったLINE WORKSのトークルームが液晶モニターに映されていた。
「相模原市の新規のケアマネージャーより、最短でベッドを搬入してほしい。急遽(きゅうきょ)退院で困っている。1時間以内に行ってください」
「30分後に訪問は可能ですが、どなたか倉庫からベッドを持ってきてください」
同社はケアマネから営業所の事務員に依頼が入ると即時に、約30人の全営業・事務 社員に共有。対応できる営業担当者が利用者宅に向かうのと並行し、事務員はLINE WORKSでつながる外部の介護・福祉機器の業者とのトークルームで発注業務に入る仕組みを構築した。これによって、電話やファクスなど従来の方法でやりとりを行う他社が最短でも即日の搬入になるなか、「時間単位」のスピーディーな対応を実現している。
篠本高基社長は「高齢者が転倒して車いすが必要になるなど緊急の依頼が多い。困っている人にいち早く機器を届けたかった」と説明する。このサービスが支持を集め、2016年の創業から5年間で利用者は約3000人まで拡大。社員も当初の5人前後から34人 に増え、20~30代の若手も活躍している。
人材が集まる背景には、柔軟な働き方と業務の効率化がある。同社は創業当時から、現場への直行直帰やテレワークを認めて負担の軽減を図る一方、LINE WORKSで出退勤の管理から法改正などの通知、社員間の日々のコミュニケーションを補完してきた。横浜営業所の田中洸平所長は「LINEと操作や活用法が近いので、新人への説明はほぼいらない。業務連絡以外に『つぶやき自慢』『感動サービス』 というトークルームで、ケアマネさんやご利用者さんに褒められたとかささいなことも共有し、会わなくてももり立てられる」と語る。
また、業務効率化の効果も大きい。介護業界は利用者が高齢なこともあって、請求書やケアプランをファクスや郵送など紙でやり取りする慣習が残る。これに対し、同社はファクスを自動で電子ファイル化し、LINE WORKSで共有してストレージサービスに保管している。この方式を採用して以降、1カ月に使用する用紙は7500枚から7割近く削減し、2500枚に。事務員の杉本美和さんは「紙の書類を整理したり、探したりする時間が大幅に減った」と胸をなでおろす。
効率的で働きやすい職場の評判が広がり、求人には同業他社から毎月2~3人の応募があるという。篠本社長は「介護・福祉業界は、書類の処理など生産性の低い仕事に労働力を割いているのが課題だ。ITを上手に取り入れて業界の体質を改革し、成長産業の魅力を伝えたい」と前を向いた。
出典:産経ニュース
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