世界各国の障害者権利条約の実施状況を監視する国連障害者権利委員会。その作業を担う18人の権利委員の中に史上2人目の日本人が選ばれた。聴覚障害のある弁護士、田門浩さん(57)=東京弁護士会所属。1月から4年間の任期がスタートした田門さんに、権利委員としての意気込みや日本国内の障害者を取り巻く課題について聞いた。【聞き手・黒川晋史】
――障害者権利委では何をするのですか。
◆国連の障害者権利条約は日本を含む190カ国以上が批准しています。障害者の権利を実現するために締約国が取るべき措置を定めていて、各国の取り組み状況を監視する役割を権利委が担っています。国からの報告と、障害者団体側が作成・提出する「パラレルレポート」をチェックした上で、「総括所見」という形で意見を述べます。
――権利委員に立候補した経緯を教えてください。
◆私は福島市出身です。2011年の東日本大震災では障害者も被害に遭い、避難所の生活に苦労したと聞きました。世界でも同じように災害時に障害者の権利が守られていない状況があり、ずっと権利委員として災害時の権利保障に関わりたいと思っていました。
また、国内で旧優生保護法下での強制不妊手術に関する違憲訴訟に代理人として関わり、優生思想をなくしたいという思いもありました。そして聞こえない私自身の立場からは、手話言語を音声言語と対等のものとして権利を保障することも重要です。権利委員として各国を審査をする際は、これらの点を重視したいです。
――日本に対しては22年、初めて国連から総括所見が示されました。
◆総括所見では90項目以上を改善するよう勧告がありました。特に大きな課題としては、精神科病院があります。入院期間が他国より長く、条約に照らせば、本人の意思に反する「強制的な身体拘束」になります。当事者が地域で過ごすための体制整備を急がねばなりません。
次に、インクルーシブ(包摂的)教育も大切です。実は今、特別支援学校の生徒が増えています。障害のない人が障害者のことを知らないまま育ち、社会に出て突然、障害者に会うとスムーズに対応できない。そうした事態を生まないためにも、小さい時から共に学ぶ体制が必要です。他にも、本人の意思決定を支援するのではなく「代行」する成年後見制度も権利条約上は問題があります。課題は多くあります。
――他国と比べ、日本の障害者施策はどのような位置にあるのでしょうか。
◆例えば欧州と比べると、障害者が社会で活動するための体制づくりが遅れていると思います。欧州も昔は施設収容による福祉が中心でしたが、今は社会の中で暮らす方向に変わっています。一方、日本社会は変化が遅い。戦後の高度成長期に経済を優先し、障害者施策が後回しになった影響が今も残っているのではないでしょうか。
手話通訳ひとつ取っても国からの助成はかなり限られています。私は個人事業主ですが、手話通訳者の費用は全て自分で払っています。一方、イギリスでは国から費用が出ます。
もちろん、海外でも体制づくりが行き届いていないケースはあります。国連でさえ権利委員として活動する際、フルタイムで手話通訳がつかず、私は配置するようお願いをしているところです。しかし日本の遅れは先進国でも目立っていると言えます。
――状況を変えるために、私たちには何が必要なのでしょうか。
◆障害者に対する見方を根本から変えなくてはいけないでしょう。「障害の社会モデル」という考え方がありますが、要は障害者は社会にバリアーがあるために、自分の力を発揮できない。これは障害者だけの話ではなく、実は障害のない人も、社会の側から配慮してもらう必要があるのは同じです。
例えば階段がなければ2階には行けない。大きな会議室ではスピーカーがないと講師の声が聞こえない。それと同じように障害者にもそれぞれの特性に応じた配慮が必要だということです。
日本ではどうしても、他の人と力を合わせて社会を作るという考え方が少ない気がします。障害者も障害のない人も一緒に社会を支える。そんな考え方が必要だと思います。
1967年、福島市生まれ。生まれつき耳が不自由で、東大法学部を卒業後、千葉市役所に勤務した。司法試験に合格し、98年から弁護士として活動。09年から政府の「障がい者制度改革推進会議」で構成員への支援を通じて法整備にも関わった。24年6月、国連の権利委員に最多得票で選出された。
引用:毎日新聞
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