より良い社会を探す、見つける、伝える新時代のWEBメディア

C magazine for the PT OT ST

精神疾患が急増中も45%がうつ病の症状を理解せず…実は役立つ2つの「公的サポート窓口」

Nov 14, 2022

毎日健康に生活するには、持病のケアはもちろん、メンタルヘルス対策も欠かせない。しかし、その意識や理解度が十分ではない現実が浮き彫りになっている。

◇  ◇  ◇

厚労省の「患者調査」(2020年)によると、うつ病や統合失調症など精神疾患を患う人は約615万人に上る。前回の2017年より196万人も増えている。およそ20人に1人の割合で、ストレス社会の今、生涯に5人に1人は何らかの精神疾患になるといわれている。だれでもかかりうる病気だ。

2020年は、コロナ禍が拡大。生活や経済、ひいては命への不安がじわじわと広がった。患者数が急増したのは、そんな不安の拡大と無縁ではないだろう。

情報収集に「自信あり」は一般14%

これだけ患者数が増えると、メンタルヘルス対策が普及してもよさそうだが、現実はそうでもない。デンマークの製薬企業ルンドベック・ジャパンが世界メンタルヘルスデーの10月10日を前に、メンタルヘルスリテラシーについて調査したところ、一般の人の45%が最も身近な精神疾患であるうつ病の症状を理解していないことが明らかになった。

調査は、精神疾患の患者500人と一般の人500人が対象。うつ病そのものの認知度は、いずれも9割を超えた。社会不安障害やパーソナリティー障害など計8つの疾患の認知度は、患者で平均6割。一般の人は、2~5割だから、うつ病だけ突出しているが、一般の人では45.2%が具体的な症状を理解していなかったのだ。

調査を監修した日本うつ病センター副理事長で、六番町メンタルクリニック院長の張賢徳氏が言う。

「より深刻な現実を浮き彫りにしたのが、公的な相談窓口の認知度で、患者さんでも約53%にとどまりました。一般の方では、施設によって3~4割です。精神疾患に関する情報入手についても尋ねたところ、『自信がある』は患者さんが約25%、一般が約14%といずれも低調でした。これでは専門家のサポートがなかなか得られません。心配です」

専門家のサポートを受けるかとの問いには、患者6割、一般5割が「求める」と回答しながらも、3~4割は「どちらともいえない」と態度を保留している。精神疾患になった場合、「だれにも言わない」が一般で25%。「どちらとも言えない」は、患者が約38%、一般が48%で、精神疾患への差別や偏見を気にしている様子も見て取れるだろう。

日本と対極にあるのがデンマークだ。高福祉国家として知られる北欧の国で、医療費は原則、無料。医療は、5つの医療圏に分けて提供されている。何が違うのか。コペンハーゲン大学精神医学センターのメレテ・ノルデントフト教授が言う。

「デンマークでも、かつては精神科医療の質が低い、予防や早期介入が十分に行われていない、サービス提供施設の受け入れ能力の不足といった課題がありました。そこでこれらを解決するためのアクションプランを策定し、『メンタルヘルスの問題を抱える子供や若者が簡単に利用できる質の高いサービスの確立』が優先度の高い提言事項のトップに掲げられたのです。その結果、生まれたのが、精神疾患を患う方への『包括型地域生活支援プログラム(ACT=アクト)』で、通常治療と比較したところ、素晴らしいエビデンスが得られています」

デンマークでは1人360万円の節約

アクトでは、治療から脱落するリスクが6割低下、入院日数は14%短縮された。大きな効果が得られたことで、アクトが国のガイドラインに組み込まれ、通常治療を続けることが難しい患者に推奨されているという。

そのアクトを実行する上で見逃せないのが、家族への介入だ。

「まず両親やパートナーへの教育です。その内容は、精神疾患の仕組みや治療法、薬の効果と副作用のほか、心理的なことやストレスまで幅広く網羅し、精神疾患になった人への社会的なサポートについてもレクチャーします。悩みや不安があれば、専門のスタッフに相談。このほか、隔週で決められた複数の家族が集まって、それぞれが気になることや問題点を語り合う場を設けています。相談は1回あたり1時間で、複数家族での話し合いは1時間半です」

家族が病気を理解すれば、患者は孤立せず、サポートも得られやすい。デンマークは、患者だけでなく、家族丸ごと支える仕組みを整えたのだ。患者がこのプログラムを利用すると、初回の面談では病状やライフスタイルについて細かくチェックされ、何と2時間に及ぶ。

治療方針が決まってからも、精神科医やケースマネジャーと1週間に1回1時間の面談があって、日本でも行われている認知行動療法や心理教育などを受ける。状態が悪いときは、その都度集中的な治療を受ける。1カ月に1回は、薬の効果や副作用、さらにメタボリック症候群のチェックも行われるという。患者同士が集団で社会的なスキルを学ぶ訓練は、週1回最長90分と治療のパッケージがすべての面で緻密だ。

「通常治療と比較したところ、患者1人あたり5年で2万5000ユーロの節約になりました」

1ユーロは約145円だから、日本円で363万円ほど。この節約効果はデカい。

「デンマークのプログラムは、素晴らしい。しかし、デンマークの人口は約600万人で、兵庫県と同じ規模です。1億2000万人を超える日本で同じことをやるのは正直言って難しく、現実的ではないでしょう」(張氏)

デイケアや家族会を運営する施設も

では、日本で心を痛めた人は、どうすればいいのか。張氏が続ける。

「今回の調査で明らかになったように、公的なサポート窓口の認知度が低い。これが大きな問題。心の不調を感じたり、度重なるストレスにつらい思いをしたりしたら、この窓口を利用することです」

その窓口が、保健所と精神保健福祉センターだ。保健所はコロナ禍で注目を浴びたように感染症の予防や母子の健康チェック、飲食店の監督指導などの業務になじみがある。精神疾患の相談や社会復帰支援も、重要な仕事の一つなのだ。

「保健所では、医師や保健師、精神保健福祉士などの専門家が、心の健康や思春期問題、ひきこもり相談、アルコールや薬物依存症の家族相談など幅広い相談を受け付けています。電話でも面談でも可能です」

なるほど、知らなかった人は保健所で精神疾患の相談ができることを頭に入れておこう。

次は、精神保健福祉センターについて。

「各都道府県や政令指定都市ごとに1カ所ずつあって、『こころの健康センター』などと呼ばれていることもあります(東京は3カ所)。保健所と同様に心の健康や精神科医療について、社会復帰のこと、認知症高齢者相談など精神保健福祉全般をカバー。センターの規模によっては、デイケアや家族会の運営を行っているところもあります。対応する専門家は、医師、看護師、保健師、精神保健福祉士、公認心理師、作業療法士など施設の規模によってさまざまです」(張氏)

精神科や心療内科などで治療を受けながら、この2つも積極的に活用すれば、デンマークのプログラムに近づく。利用しない手はないだろう。

「一般の方は、医学部生のように医学のトレーニングを受けたわけではないので、症状を的確に見極めるのは難しい。でも、『ちょっと変だな』『おかしいな』という感覚はだれにもあるはず。これを大事にして、ちょっとした不調を感じたら、ためらうことなく保健所やクリニックなどを活用することです」(張氏)

恥ずかしがることもないのだ。

引用:日刊ゲンダイ

Cでの広告掲載、
求人情報や研修会情報の掲載をお考えの方はこちらから
LATEST
MORE
FRIENDS

CのMEMBERに
なってくれませんか??

CのMEMBERになると、
オンラインコミュニティでの
MEMBER同士のおしゃべりや
限定コラムやメルマガを
読むことができます。
MEMBER限定のイベントに
参加も可能です!