コロナ禍のライフスタイル・ワークスタイルの変化を経て、いっそう注目を集めている「ウェルビーイング」。9月17日から25日には、その模索と実践、対話の場として、東京ミッドタウンで「Wellbeing Lab 2022」が開催された。
ヨガ、マインドフルネス、アートなど、さまざまなプログラムが展開されるなか、ホールA会場では20日、「Wellbeingで開かれる組織の新たな姿、モチベーション/エンゲージメント」をテーマに、トークセッションを開催。「個と、社会の未来を輝かせる」をパーパスに掲げるLUFの吉本明加社長と、IBUK代表取締役で健康経営アドバイザーの平井孝幸が登壇し、吉本が平井に質問する形で公開対談が行われた。
平井は前職のDeNAで、大企業のなかでもいち早く“健康経営”を推進させてきた人物だ。詳細はForbes JAPANのコラムに詳しいが、当時実施していた取り組みは、呼吸や睡眠、姿勢、オーラルケア関するセミナーをはじめ、仮眠室の設置、理学療法士による社内巡回、ワーケーション実験まで多岐に及ぶ。
長年、働き方や健康に注力してきた視点で、平井は、ウェルビーイングを“心身が豊かな状態”と解釈しているという。「病気にならないことはもちろん大事ですが、それ以上に心の状態が重視されるのではないか」と、メンタルヘルスの重要性について示唆。
採用のみならず、風土醸成やダイバーシティ&インクルージョンの推進までを支援する吉本もその考えに同調。「心の豊かさには、経済面はもちろん、自身のキャリア、所属する組織などの要素がバランスの良い状態であることが必要」と言及した。
働き方や生産性、従業員の健康を考える際に語られる言葉に、“プレゼンティーイズム”というものがある。これは、従業員が「健康の問題を抱えつつも仕事(業務)を行っている状態」を表す言葉で、DeNAが2015年に実施した調査では、運動、食事、睡眠、メンタルの領域だけで年間23億6000円の損失が出ていると判明した。
しかしプレゼンティーイズムの数字は、「定期健診などの結果からは見えにくい」かつ、この言葉自体がまだまだ浸透していない。そこで吉本が、「そのために具体的に何をすべきか」と質問すると、平井は“ちょっとしたことでいい”のだと言う。
「例えば腰痛なら、よほど重度でなければ姿勢を整え、日常的に軽いエクササイズを取り入れれば緩和していくものです。デスクワークの多いビジネスパーソンであれば、正しい座り方を身につけたり、仕事をしながら1時間に1度でも骨盤や肩甲骨を動かすと、プレゼンティーイズムの数値は下がっていきます」
ウェルビーイングという言葉が政府の骨太の方針に明記されたのは2021年。健康経営は、遡ること2015年に、経済産業省と東京証券取引所が共同で、一定の基準を満たす上場企業を選定・公表する「健康経営銘柄」を始動。同銘柄に認定される企業数は年々増えてはきている。
しかし平井は、「健康経営という考えは広がっているように思えても、健康経営度調査に対応することに意識がいってしまうなど、実は表面的な取り組みをしている企業がまだまだ多い。健診結果や喫煙率をKPIにする企業は減ってきたものの、社員のウェルビーイングがおざなりになるケースは少なくない」と警鐘を鳴らす。
銘柄認定を意識するような大手が、“ウェルビーイング経営”や“健康経営”と掲げる看板に恥じぬよう、経営に資する取り組みを増やしていき、それに触発された従業員の健康意識やリテラシーが上がっていくことが、のちには国の医療費適正化などにも結びつくと語る。
吉本は、投資対効果が見えにくい健康経営を浸透させるためには、「いかに経営層に効果を実感させるかがカギになるのではないか」とコメント。平井も、各施策における経営層の参加率を高めることが新たな企業文化を醸成させていくことに繋がり、その結果、従業員ひとりひとりの意識変容や行動変容に大きな影響を及ぼすと同意。そのうえで、IBUKIがさまざま実施してきた施策のなかでも、著しい効果を上げたのが、ゴルフを活用したエクササイズだったという。
「健康になろうと言ったところで、そもそも健康に関心を持つ人たちは少ないというのが現実です。一方で、趣味で毎週のようにゴルフをプレーしている人たちは、そのためのお金も時間もいとわなかったりします。そのゴルフへの熱量を健康のために転換できればいいのではないかと、プロゴルファーや整形外科医に協力してもらい、 “Golfing”というオリジナルプログラムをつくりました」
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