肘内側側副靱帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)の権威である慶友整形外科病院スポーツ医学センター長の古島弘三医師は、野球上達への“近道”は「怪我をしないこと」と語ります。練習での投球数を入力することで肩や肘の故障リスクが自動的に算出されるアプリ「スポメド」を監修するなど、育成年代の障害予防に力を注ぎ続けてきました。
では、成長期の選手たちが故障をせず、さらに球速や飛距離を上げていくために重要なのは、いったいどのようなことなのでしょうか。この連載では、慶友整形外科病院リハビリテーション科の理学療法士たちが実際の研究に基づいたデータも交えながら、怪我をしない体作りのコツを紹介していきます。今回の担当は佐久間健太郎さんと貝沼雄太さん。テーマは「疲労のモニタリング」です。
最近、疲労と怪我が密接に関係しているとする研究が多く報告されています。「そう言われれば確かに」と筆者も思うわけですが、疲労をモニタリングする方法はあるのでしょうか。今回は、この問いにヒントを与えてくれる研究を2つ紹介したいと思います。
投球によって肩にかかる負担については、トップ選手が腕を振るスピードは最大で「9000°/秒」と言われており、これは1秒間で肩が25回転するスピードということになります。とても想像できませんね。
一方、肘にかかる負担は肘の内側に最大で「64N・m」の負荷がかかると言われています。kgに変換すると「6.5kg・m」。これは肘からボールを持っている位置を1メートルとした場合に6.5kgで引っ張られるという計算になりますので、50センチと過程するとその負荷は倍になり13.0kgということになります。このデータはトップ選手による計算値であり成長期のみなさんとは異なりますが、いずれにしても大きな負荷が加わっていることを理解できると思います。
最も簡便なモニタリングは選手に0~10の11段階で運動強度を入力してもらう方法です。この方法をRPE(自覚的運動強度)と言います。このRPEと練習時間を使うことでACWR(acute : chronic workload ratio)という数値を算出します。この数値は「3~7日間の運動強度の平均値」を「3~6週間の運動強度の平均値」で割ることで算出されます。この数字が0.8を下回る、もしくは1.3を上回ると怪我をしやすくなると言われています(※1)。0.8~1.3の間であれば怪我をしにくいということになります。
この方法は選手の回答に依存するため、精度については選手の協力が必要ですが、お金をかけずに把握できる優れた方法です。(※古島医師が監修する「スポメド」は疲労度と練習時間を入力するだけでACWRを計算して、0.8以下もしくは1.3以上で通知をする仕組みになっています)
もう一つは機器を使用して負荷量を算出する方法です。最近では慣性計測装置が普及しています。「PULSE THROW」という機器をご存知の方も多いかもしれませんが、6.9g(グラム)のセンサーで肩・肘の負担を計測することができます。また、肘に蓄積している負担を可視化することも可能であり、推奨する負荷量を提示してくれます。エンゼルスの大谷翔平投手が肘のコンディショニングに使用していることでも有名ですね。
今回は疲労と怪我の関係性を紹介しました。疲労をしていない状態が良いということではなく、適切な運動強度による疲労は必要ということでした。このモニタリングは選手が回答するだけで簡単に測定することができます。チームのコンディショニング管理として導入してみてはいかがでしょうか。
▼参考文献
※1 Gabbett TJ. The training-injury prevention paradox: should athletes be training smarter and harder? Br J Sports Med. 2016, 50(5):273-80.
※2 Dowling B et al. A Review of Workload-Monitoring Considerations for Baseball Pitchers. J Athl Train. 2020, 55(9):911-917.
引用:Full-Count
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