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「腎臓リハビリで筋力維持を!」と専門医 足腰が弱って人工透析に通えなくなる患者が増加

Jul 4, 2022

歩くのが遅く、横断歩道を青信号の間に渡り切れない。ペットボトルのふたを開けるのが大変……。筋肉量が減ってこのような状態になるのが「サルコペニア(筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態)」だ。転倒や寝たきりの原因になるとされている。人工透析を受けている患者はそうでない人に比べ、サルコペニアの合併率が高率であることがわかった。サルコペニアでからだが動かなくなると透析を受けに行くことが難しくなる。サルコペニアを合併した透析患者は、死亡リスクが3倍になるという報告もあり、専門医たちはサルコペニアの予防策に力を入れ始めている。

東京都渋谷区の日本赤十字社医療センターに、ある日、都内の透析クリニックから高齢患者が救急車で運ばれてきた。その患者は血液透析を受けている最中に、体調不良となった。血液透析をおこなうクリニックでは、患者の自宅とクリニックをバスで送迎するケースが多い。この患者もそうだったが、このような事態のために、帰れなくなった。もともとからだが弱ってきていて足腰が動かなくなっていた。たとえ無理をして帰ることができても、次の透析日に来院が難しいとクリニックの主治医が判断。病気の治療をしてもらい、「入院での透析ができるように」という理由から、その対応が可能な日本赤十字社医療センターに運ばれてきたのだった。

人工透析は腎臓の機能が著しく低下したときに、その代わりとなる腎代替療法の一つだ。糖尿病や高血圧が引き金となって起こる慢性腎臓病(CKD)の増加や社会の高齢化により、人工透析患者は年々増加し、総数は30万人を超えている。

人工透析のうち血液透析は週に3回、病院やクリニックに通い、4時間かけて血液をからだの外に出し、人工腎臓(透析器=ダイヤライザー)を通じてからだの毒素や余分な水分を取り除いた後に再び体内に戻す治療だ。

透析ができなくなると老廃物や水分がからだにたまり、命が危険にさらされる。雨の日も風の日も、「透析を休めない」と言われるのはこのためだ。

「近年は透析患者が高齢化し、通院がままならなくなって、病院に搬送される患者さんが珍しくなくなりました。透析クリニックに自力で通うことができなくなり、透析施設のある療養施設に入る人も増えているのです」

と言うのは、日本赤十字社医療センター腎臓内科の山田将平医師だ。

さらに、人工透析を受けている人はサルコペニアになりやすいことが明らかになっていると言う。サルコペニアは筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態をさす。歩くのが遅く横断歩道を青信号の間に渡り切れない、ペットボトルのふたを開けるのが大変……などが典型的な状態で、転倒や寝たきりの原因になる。

疫学調査によればある地域の日本人の一般高齢者949人(平均73.2歳)のうち、サルコペニアと診断されたのは7.9%。他の複数の研究でもほぼ同じ数となっている。

「血液透析患者の研究データでは同規模の調査ではないものの、高齢の血液透析患者(平均76.5歳、20人)を対象とした研究で55%(11人)がサルコぺニアという結果が得られており、その差は大きいのです」

透析患者がサルコペニアになりやすい理由はいくつかある。透析で血液から老廃物を除去する際、たんぱく質の材料であるアミノ酸も取り除かれてしまう。1回の血液透析で6~13グラム(腹膜透析では2~4グラム)が失われることがわかっている。

「もう一つは運動不足。実は腎臓病の人は安静が大事、と言われていた時代が長らくありました。そのイメージのまま、運動をしてはいけないと思っている人が多い。また、運動をすすめても、『透析に来るだけで大変』『そんな時間はないよ』と言われてしまうこともよくあります」

しかし、前述のように、透析患者はサルコペニアになりやすいことは事実。さらに、注意したいのは、サルコペニアを合併している透析患者は合併していない患者の3倍、死亡リスクが高いという研究報告があることだ。

「このため、食事や運動療法を中心とした透析患者さんのサルコペニア対策が始まっているのです。正式には腎臓リハビリテーションというもので、2022年からは診療報酬の対象となりました。つまり、保険診療でおこなう治療の一環なのです」

例えば食事療法では、管理栄養士が中心となり指導。特に大事なのは筋肉の材料であるたんぱく質の量を増やすこと。しかし、これが難しい。

「透析前は腎機能への負担から、たんぱく質の制限をされている患者さんがほとんど。なぜ透析に入ったら制限がゆるくなるのか理解できないと、なかなか食べてもらえません」

また、腎臓病の患者はもともと、ミネラルの一種であるリンもきびしく制限されている。この制限は透析後も続く。一方、肉や卵などたんぱく質の多い食材にはリンも多く含まれている。このため、食べてはいけないものと思い込んでいる人が多いのだ。

「しかし、その理解はあやまりです。肉や卵など、自然食品に含まれる有機リンはからだへの吸収率が40~60%。一方、加工食品に多い無機リンは吸収率90%以上ですから、リンの制限に関しては、いかに加工食品を減らすかがポイントなのです」

高齢で食が細くなると肉を取ることが胃の負担になる人も多い。歯が弱く、硬いものは食べにくいという声も。山田医師はそのような患者には、食べやすい卵をすすめている。

運動はどのようにおこなうのがいいのか。山田医師によれば、血液透析の出入り口となる「シャント」に気をつける必要はあるものの、「透析患者がやってはいけないものは少ない。やりたいスポーツなどがあれば主治医に相談の上、できるだけ取り組んでほしい」と言う。

運動習慣がない人はまず、歩くことから。腎臓リハビリテーションのガイドライン(日本腎臓リハビリテーション学会編)をもとに、1日4000歩以上、週に5回以上のウォーキングが推奨されている。

「歩数計をつけてもらい、歩数を血圧の値と一緒に、ノートに記録して、外来受診時に見せてもらうようにしています。歩数を増やすコツとして、クリニックの送迎バスなどを使っている人は、公共交通機関にかえるのもよいでしょう」

医療機関の中には透析患者用に、運動器具が設置されているところも増えてきた。ベッドで透析を受けながら、「下肢エルゴメーター」で、自転車こぎ運動ができるところもある。

透析患者はサルコペニアになりやすいだけに、その予防にはいっそうの意識改革が必要だ。今後、腎臓リハビリテーションがますます重要になってくるだろう。

引用:AERA dot.
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