視覚障害者への「合理的配慮」 職務質問巡る訴訟で指摘 原告夫婦「健常者から対話を」

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視覚障害者への「合理的配慮」 職務質問巡る訴訟で指摘 原告夫婦「健常者から対話を」

Jun 16, 2024
視覚障害者への職務質問を巡り、神奈川県警の対応の違法性を認めて27万5000円の損害賠償を命じた3月の横浜地裁判決。障害者差別解消法が定める合理的配慮のあり方が争点となり、判決は健常者の側が積極的に情報提供をする必要性に言及した。被告の県側が控訴し、訴訟は続いているが、原告の夫婦は本紙の取材に「視覚障害者は情報提供をしてもらって、初めて意思表示できる。合理的配慮の意味合いを考えてもらえたら」と話す。(森田真奈子)
 「裁判官が3人、女性2人、男性1人です。傍聴席には10人ほど傍聴人がいます」
 3月21日、横浜地裁。高取真理子裁判長は判決の言い渡しに先立ち、原告席に座る全盲の夫と強度の弱視の妻に向かって、法廷内の状況を説明した。目が見えないことによる障壁を取り除く、合理的配慮の一環だ。
 判決は、2019年10月に磯子署員が夫婦宅で職務質問した際、承諾を得ずに居室内まで立ち入ったことを違法と認定。就寝前で下着姿で対応した夫に対し、女性警察官がいると伝えなかったことについては「人格権を侵害した」と踏み込んだ。
 訴訟では、夫婦が署員に合理的配慮を求めたかどうかを巡り、双方が対立した。障害者差別解消法は、配慮の義務が生じるのは「社会的障壁の除去を必要としている意思の表明があった場合」と規定しているからだ。
 県警側は「夫婦は具体的な意思の表明をしておらず、義務は生じない」と主張。一方、夫婦側は「何人の警察官がいて、どこに立っているのかも分からなかった」として、意思を示すための前提を欠いていたと反論した。
 判決は、障害者に配慮すべき事項が明白な場合などには、具体的な要望が無くても義務は生じると指摘。その上で「下着姿を見られることに羞恥心を感じる可能性は容易に想定できた」として、衣服を着るかどうか確認するなど必要な対応を怠ったと結論付けた。室内への立ち入りに当たっても、警察官の人数や性別などを説明するべきだったと断じた。
 「本物の警察官かも分からず、恐怖だった」
 50代の妻は5年近く前の職務質問を振り返り、当時の心境を吐露。一審判決が、「意思の表明」の意味合いを示したことを「目が見える側から対話する必要性に踏み込んでくれたのは良かった」と評価した。
 60代の夫は「視覚障害者は大きな情報落差があり、今回のような無言の対応が一番困る」と改めて強調。訴訟は高裁に移ったが、県警だけでなく全ての人に対して「今回の事例を知り、合理的配慮とはどういうことなのか、考えてもらえたら」と訴えた。

◆識者「ニーズ知る努力必要」

 今回の一審判決について、東京大バリアフリー教育開発研究センターの飯野由里子特任教授(障害学)は「法律の理念に基づけば妥当な解釈」と評価。必要な情報が得られずに意思表明の機会を逸する事例は多いとして、「『意思表明がなければ何もしなくていいわけではない』と強調したのは重要だ」と話す。
 障害者差別解消法に基づき、政府が策定した基本方針は、障害者本人による意思表明がない場合でも「社会的障壁の除去の必要が明白な場合には、配慮を提案する建設的対話を働きかけるのが望ましい」と明記している。合理的配慮の提供義務は4月から民間事業者にも広がったが、飯野さんは「意思の表明がなければ、何もしなくていいと誤解されがちな現状もある」と説明する。
 さらに、当事者が子どもや知的障害者であったり、相手が優位な立場に立っていたりすれば、要望を伝えづらい状況も想定されると強調。「周囲がニーズを知ろうとする努力が必要。十分な情報を提供した上で対話を重ねる、当たり前のコミュニケーションが大切だ」と語った。(森田真奈子)
引用:東京新聞
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