糖尿病、高血圧などに起因する腎不全の患者らが透析治療中に、運動不足を解消し、透析効率の改善が期待される運動療法を取り入れている。1回4時間程度の通院が週3回必要な透析患者にとって、ベッドの上で行う単調な運動はモチベーションの維持が課題。聖隷クリストファー大(浜松市北区)の学生が、健康につながる運動を楽しく継続してもらおうと、クイズなどを交えた運動療法の動画を制作し、市内クリニックで試験提供を始めた。
「世界で1番人口が多い国は?」「オーストラリアの首都はどこ?」。浜松市中区のさなるサンクリニックで9月中旬、ゴムチューブを使って運動に取り組む血液透析の患者が頭上のモニターを見て、運動と連動して出題されるクイズを楽しそうに解き進めていた。
開発したのは、透析患者の運動療法などを研究するリハビリテーション学部理学療法学科・矢部広樹准教授のゼミ生5人。矢部准教授によると、透析患者はベッドに横たわる時間が長いため身体機能の低下や合併症を招く恐れがある。日本腎臓リハビリテーション学会は体力強化や歩行機能、QOL(生活の質)の向上に効果があるとして運動療法を推奨している。
約300人の透析患者が通院する同クリニックは運動療法に早くから着目して5年前から導入。マンネリ化しない運動方法の開発について、以前から親交があった矢部准教授に協力を仰いだ。
ゼミ生は患者、看護師にインタビューしてプログラムに取り入れてほしい要素を調査。筋肉を鍛え、心機能や貧血、睡眠の質を改善させるような約20種類の運動に、リラックス効果を高めるクイズや音楽を交えて約30分の動画が完成した。
試験提供後、利用者からは休憩の確保や、初心者でもリズムが取りやすい運動を望む声が上がった。クイズは定期的に更新し、透析患者に適した食事や健康管理をテーマにした問題も考えていくという。 13年前から通院している女性(69)は「継続は大変だけど、クイズをしながら体を動かすのは楽しい」と顔をほころばせる。ゼミ生代表の松井明由奈さん(20)は「高齢化で運動を避けてしまう患者が多いことを知ったが、何より継続が大切だと思う。利用者ができるだけ苦痛に感じない運動のプログラムを提供できるように今後も知恵を絞りたい」と話す。
<メモ>日本透析医学会の統計調査によると、2021年の透析患者は約34万9700人。前年比で2029人増加したが、伸び率は近年緩やかになっている。21年に透析を始めた患者(導入患者)は約4万人で平均年齢は71歳だった。矢部准教授は「導入患者の高齢化が進み、運動療法の必要性が高まる中、いかに継続させていくかが課題」と指摘する。 22年の診療報酬改定では透析中の患者に運動に関する指導をした場合に算定できる「透析時運動指導等加算」が新設された。運動療法の広がりが期待される。
引用:静岡新聞社
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