日本生活習慣病予防協会の調査によると、健康と要介護の間の虚弱な状態「フレイル」に該当する患者が、40代と50代にも広がっているという。中年フレイル対策として運動や食事の見直しも大切だが、睡眠の質の改善も大事だ。AERA 2023年10月9日号より。
そもそも40代、50代の睡眠は、うまくいっているのか。睡眠が専門の医師で、RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック理事長の白濱龍太郎さんは、「睡眠にとってはちょうど難しい年代だ」と話す。 「動物としての人間の40代あたりは、メラトニンという自然な眠りを誘うホルモンの働きが落ちてきて、一方でオレキシンという覚醒系を活性化するホルモンの働きは強くなってくる、『眠れなくなる素質を持っている年代』。そこに働き盛りならではのさまざまなストレス負荷がかかり、交感神経が高ぶって緊張状態が途切れなくなっている状態が、快眠にブレーキをかけている面があります」 心身の活力をみなぎらせ、日々のパフォーマンスを維持するには、基本はやはり睡眠。うまく取れていないと、年齢よりも早めに心身の機能低下が訪れる「早老状態」になりかねないと白濱さんは指摘する。 「中でも注意すべきなのが、睡眠時無呼吸症候群です。有病率は40代からぐんと上がります。気道が閉塞(へいそく)しやすいという骨格的な要素に加えて、年齢なりの筋肉のゆるみや、飲酒や喫煙によるダメージの蓄積もあり、40代以降の男性の約3割から4割が睡眠時無呼吸症候群だという説もあるほど。間違いなく睡眠の質は落ち、回りまわってフレイルのリスクにもなり得ると思います」 睡眠は、さまざまな心身の衰えと密接にかかわっている。 日本生活習慣病予防協会の調査結果によると、中年フレイルに陥らないための対策として「筋肉を減らさない」という回答も多かったが、これにも「睡眠」が大きく関わる。作業療法士で睡眠外来の経験も豊富な菅原洋平さんは、「筋肉量と睡眠の質は関係性が深い」としてこう説明する。
「質のいい睡眠を取るためには、体温を下げることが一つのポイントです。深部体温という体の内部の熱を外側に逃がす(放熱する)ことで代謝率を下げ、細胞活動を沈静させることも睡眠の目的の一つだからです。筋肉量が多いと、熱を産生して体温を上げる能力が高い分、放熱して体温を低下させる能力も高い。筋肉量が多ければ多いほど睡眠の質を上げることができます」 また筋肉を再生する成長ホルモンは睡眠の中で分泌されるので、良い睡眠の結果、筋肉も付いていくのだと言う。 「眠れれば体温がしっかり下がる。しっかり下がれば起床後にまたしっかり上がり、『運動しよう』というモチベーションも湧きやすく、好循環が生まれます」 昨今は「腸活」も推奨され、胃腸の虚弱化を指す「ガットフレイル」という言葉も注目されている。この腸と睡眠も、密接な関係にある。 たとえば腸内環境が整っているグループとそうでないグループに分け、就寝前に刺激的な映像を見てもらった場合、眠りの質に差が出てくるという調査結果もあると言う。 「腸内環境が整っていないグループは、刺激によって動揺など影響が見られるのですが、整っているグループは、たとえば心拍数が上昇してしまうなどの反応があまり起こらなかった。つまり外部環境に対して生理的なリズムが乱され、睡眠の質が悪化する弊害が、腸内環境が整っていれば起こりにくいんです」 では、心の衰えと睡眠との関係はどうか。フレイルには身体的な側面だけでなく、認知機能や意欲・判断力が低下する「精神的側面」と、社会交流の減少による孤立・孤独など「社会的側面」もある。その二つと「うまく眠れているか」も、深く関わっている。 「日中に高ぶった交感神経を、夜に急に切り替えて眠れと言われても難しい。神経には、交感神経を抑制する『腹側迷走神経』という副交感神経の活動があります。これは他人と何か感情を共有したり、社会的な自分の価値を感じることができていたりするときにはうまく働き、交感神経が抑えられるんです」 つまり、コロナ禍などで「社会的なつながり」が失われるケースが増え、他人とのやりとりが行われにくくなることで、感情を高ぶらせたまま夜を迎える。それが「眠れない」という自覚につながってしまう背景があると、菅原さんは指摘する。(編集部・小長光哲郎) ※AERA 2023年10月9日号より抜粋
引用:AERA dot.
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