全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)が、兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で開催されている。今年も厳しい暑さの中での開催が続くが、雑誌や書籍を除いたほとんどのマスメディアでは炎天下でのプレーなどを危惧する記事は目にしない。主催の朝日新聞をはじめ、他のテレビもラジオも新聞にとっても、「夏の甲子園」は大きく扱う魅力的なコンテンツであることと決して無関係ではないだろう。
朝日新聞をはじめ、新聞メディアは大会期間中、甲子園報道に多くの紙面を割く。そこに描かれた球児たちの青春は、胸が熱くなる記事も多い。 そんな甲子園はこの夏、5回終了後に暑さ対策で10分間の「クーリングタイム」が実施され、選手の身体冷却や水分補給などにあてられるようになった。ベンチ裏のクーリングのためのスペースには送風機や体温を測定するサーモグラフィーが設置され、保冷剤なども備えられている。1日10~15人の理学療法士が対応にあたり、朝日新聞デジタルの記事によれば、報道陣にスペースが公開された5日は、選手をサポートする理学療法士3人が、実際に試合中に行う身体冷却の方法を実演したという。 しかし、選手たちの異変は開幕初日から続発した。 第1試合の土浦日大―上田西戦では六回に上田西の先頭打者が三塁ゴロで一塁に走り、ベースを越えたところで膝を抱えて倒れた。同じ六回、今度は土浦日大の中堅の守備についていた選手が倒れこみ、担架で運ばれた。 さらに、第2試合でも六回、聖光学院の先発投手がベンチに下がると、そのまま交代となった。大会本部によると、第1日目の3試合で熱中症の疑いで処置した選手は計6人だったという。 翌7日、首都圏で目にした朝日新聞の紙面では、熱中症の疑いで6選手が処置されたことが記事になり、左横には大会会長でもある朝日新聞社の中村史郎社長が「ここ数年、選手の健康管理や暑さ対策の様々な取り組みを進めています。今大会からは登録選手数を拡大し、クーリングタイムを導入しました」などとしたあいさつ要旨が掲載された。毎日新聞は「熱中症疑い6人」の見出しと、その横に「クーリングタイム」が初めて導入されたことを紹介する記事が載り、読売新聞は「『クーリングタイム』手探り」の見出しで、選手たちの反応を「いい休憩になった」「ずっと座っていたので、使い方を考えないといけない」などと紹介していた。
また、デイリースポーツのネット記事では、試合に勝った土浦日大の小菅勲監督が「クーリングタイムが助かる」と感謝を述べた、と記事にしている。 選手たちがクーリングタイムを活用し、水分補給や送風機などで体温を下げたということだが、記事によれば、小菅監督は「(選手の体温が)45度くらいありましたから。あれで30何度まで下がって」などと明かし、チームの先発投手も「サーモグラフィーで体温を測ってくれて。最初サウナみたいに真っ赤で。冷やすと青になった」「体は冷やすが気持ちは切らないように、と。メリハリをつけた」と語ったという。 過酷な甲子園のフィールドの状況が明かされた格好だが、クーリングタイムが実施されても選手が途中交代する事態に見舞われても、「監督がクーリングタイムに感謝」という見出しの記事が取り上げられる現状は、高校野球ファンや読者にどのように受け取られているのだろうか。
筆者もかつては新聞記者として15年ほど前に数年、甲子園の取材を経験した。 新聞社に入社すると、地方支局に配属されるのだが、そこでは警察取材を主とする「事件・事故」、政治家や行政を取材する「国政と地方の選挙」そして、人にフォーカスした記事を書く「高校野球」を取材することが記者への登竜門とされてきた。 自らの人生を「甲子園」という目標にかけて努力を積み重ねた球児たちの青春は勝っても、負けても美しく、友情やライバルとの関係も交えた「人物ストーリー」を書くには絶好の取材機会というわけである。若手と呼ばれる入社2、3年目までの記者は代表校の取材で甲子園に行く「長期出張」で連日のように記事を書きまくって鍛えられる。 また、行政などが夏休みモードで取材機会が減る時期、支局がある県の高校が甲子園を勝ち進むと、野球部OBやブランスバンド部など周辺者も含めて地方版の「紙面」を埋めるには欠かせないコンテンツなのが高校野球でもある。多くの紙面を割くことができるスポーツ紙やテレビ、ラジオにとっても、高校野球が魅力的なのは変わらない。 もちろん、日本高校野球連盟もさまざまな対策は施している。投手の肩、肘の酷使させないように球数制限が設けられたり、ベンチ入り人数が増えたりもしてきた。今回のクーリングタイムも暑さ対策として導入されている。ただ、いずれの対策も、問題の根本的な解決を目指すものではないのではないだろうか。 そして、メディアが対策の「検証」にどこまで前向きかは、高校野球という魅力的な「スポーツイベント」とメディアの関係を考えれば疑問符がつくのが実情だろう。
『真夏の甲子園はいらない~問題だらけの高校野球』(岩波ブックレット)の共著者の一人であるスポーツ文化評論家の玉木正之氏は第三章「『廃止論』どころか『改革案』までも封殺する日本のジャーナリズム(マスメディア)の根本問題」の中で、朝日新聞出版発行の月刊誌で2014年3月号に掲載予定として執筆依頼を受けた「高校野球甲子園大会の批判」を書いた原稿が没になってしまったというエピソードを紹介している。
マスメディアの動きが鈍い一方で、野球界の著名なOBたちは「改革案」に持論を掲げる。 甲子園でスターになった松井秀喜氏はスポーツ報知が7月25日に配信した電子版「ゴジLIVE」で「夏の甲子園は前半、後半のような2部制にすれば負担は軽減されるのではと感じますが、それも難しいのでしょうかね?(中略)夏休みいっぱいを使って、甲子園大会をやってもいいのではとも思います」などと改革案を提言する。 巨人、米大リーグなどで活躍した上原浩治氏も甲子園が開幕した翌7日のヤフーコラム「野球に正解はない」で、野球の全国大会は「夏」「甲子園」というキーワードが不可欠なのか、球児の声が聞いてみたいと問いかけている。 開催時期をずらすという案には、学校の夏休み期間との兼ね合いを理由に否定的な意見もあるが、「夏しかできない」という前提に立つことが、炎天下でのプレーを強いられる高校球児たちの側に立っているのかは疑問でもある。松井氏が指摘した「分散開催」や、上原氏が直言した「球児の声を聞いて議論の土台にすべき」という指摘は極めて真っ当に思える。 猛暑は続き、重大な事案が発生してからでは手遅れであり、対策は待ったなしの状況といえる。
田中充
引用:Wedge
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