厚生労働省は2019年に「2040年には理学療法士と作業療法士は供給が需要を約1.5倍上回る」と発表しました。
柔道整復師に関しては、現在、全国には約6万軒の接骨院があると言われています。この数はコンビニの約2倍。都市部では生き残りが激しくなっています。
このような状況を踏まえて、理学療法士、作業療法士、柔道整復師の中にはキャリアアップのために、国家資格を複数取得することを考えている人もいるのではないでしょうか。
今回は、理学療法士、柔道整復師、鍼灸師のトリプルライセンスを有し東京都練馬区に接骨院および鍼灸院を開業している奥田貴佳さん(以下 奥田さん)にお話を伺いました。
重国)よろしくお願いします! まず、現在、奥田さんの経営している接骨院の概要を教えて下さい。
奥田さん)ここ東京都練馬区で真栄接骨院を開業しています。
真栄接骨院は祖父が立ち上げて、50年以上の歴史があります。15年前に父から引き継ぎまして、私は3代目になります。地域のお子様からご高齢の方まで幅広く対応していて、首、肩、腰、股関節や膝に不調を抱えている方々が多く来院されます。最近は若い方のスポーツ外傷、スポーツ障害の方も増えてきました。
重国)3つの国家資格をお持ちとのことですが、どのような順番で資格を取得したのか教えて下さい。
奥田さん)高校を卒業してまず柔道整復師の養成校に3年間通いました。父のもとで柔道整復師として働きながら理学療法士の養成校に4年間通い、卒業後は都内の総合病院に理学療法士として5年間勤務しました。その後、父の後を引き継ぎ接骨院で働きながら鍼灸師の国家資格を取りました。
重国)接骨院を継ぐのであれば、柔道整復師の免許だけでも良いと思いますが、なぜ理学療法士の免許を取ろうと思ったのでしょうか?
奥田さん)一言で言えば、この先、何があるか分からないから。ということですね笑
接骨院の数はどんどん増えて、東京は特に競争が激しいです。万が一の時に潰しがきくようにというのが正直なところでした。そして、私が柔道整復師の免許を取った2000年代は理学療法士、作業療法士の養成校が増え始めた頃でした。ちょうど2000年に介護保険がスタートして、世の中の雰囲気として高齢者のリハビリテーションの担い手は理学療法士や作業療法士、という機運が高まっていたように思います。また、父が持っていない分野を勉強したい、というのもあって理学療法士の養成校に通うことにしました。
重国)柔道整復師と理学療法士の学ぶ内容の違いはどのようなところですか?
奥田さん)理学療法士の方が学ぶ範囲が広いです。
理学療法士は総合病院で働くことも想定されていますから、整形外科疾患だけでなく、脳血管疾患、循環器疾患、呼吸器、糖尿病などの代謝疾患の理解とそれに対する理学療法についても学びます。柔道整復師は基本的に骨折や脱臼、捻挫、腰痛などの骨、関節疾患が対象ですので、その部分の知識と技術を重点的に深く学びます。先に柔道整復師の免許を持っていたので、理学療法士の養成校時代は、骨や関節、筋肉の勉強は苦労しませんでしたが、理学療法士の国家試験では、内臓系の問題も多く出題されますよね。そこはとても苦労しました笑
重国)実際に総合病院で5年間、理学療法士として働いた経験が現在、接骨院で働いていて、活かされていると感じる部分はどのようなところでしょうか?
奥田さん)一番は、病院でどのような手術をして、どんなリハビリを受けてきたのかがわかることです。
接骨院に来る方はご高齢の方も多いので、例えば、転んで大腿骨を骨折して入院してしまう人もいます。大腿骨骨折の手術は、方法によっては強く動かしてはいけない方向がありますよね。手術の時に切らなければならない筋肉があったりもします。退院後の方を施術する際に手術の知識などがあることで適切に対応できるのは強みです。
もう一つは、姿勢や動作の分析ができるとこと。
症状が出ている部位だけに施術しても、全身の姿勢や動作が変わらないと再発することも多いです。理学療法は姿勢をみることや寝返りや立ち上がり、歩くといった動作を分析するのが当たり前ですので、その技術を応用して施術にいかしています。
重国)柔道整復師は開業権がありますが理学療法士にはありません。
両方の職種で働かれた経験のある奥田さんはそれぞれのメリット、デメリットをどのように考えていますか?
奥田さん)開業権も含めて二つの国家資格のメリット、デメリットですが、
柔道整復師は、患者さんを自分で評価して治療できるので責任も伴いますがその分やりがいがあります。また、開業して経営がうまくいけば収入を増やすことができます。自費のサービスもできますから、収入の天井はありません。腕しだいです!笑
一方、理学療法士は基本的に医師の指示のもとおこなう仕事です。医師と相談しながら理学療法を実施する必要があります。ですので、どこかの組織に就職する必要がありますので、収入もその組織の規定で決められます。その分、安定した仕事とも言えます。ただ、柔道整復師も全員が開業するわけではなく接骨院に勤めている柔道整復師が大半で、開業する選択肢もあるということですね。
そして、開業の最大のデメリットといえば「競争」があるということ。
競争は2つあると考えていて、より多くの患者さんに来てもらう競争と、腕の良いスタッフをいかに雇用するかという競争です。治療の腕だけでなく経営やマネジメントの手腕も問われます。これはやりがいでもありますが、責任の重さでもあります。
重国)例えば2020年からの数年間、コロナ禍でしたがその頃は経営的にも厳しかったですか?
奥田さん)はい。本当に大変でした。何が起こるかわからない、というのはまさにこのことで。開業するというのは収入が保証されていない、ということでもありますから。
重国)柔道整復師、理学療法士の免許を持ちながら、さらに鍼灸師の国家資格を取得したということは、治療家として二つの免許では届かない、足りない部分があったのでしょうか?
奥田さん)足りない、ということではないのですが笑
ただ、確かに鍼灸でしか届かない領域はあると思っています。鍼灸は経穴、つぼを使って、疲労回復、スポーツ後のリカバリー、胃腸などの内臓の不調にもアプローチができます。あまり知られていませんが脳卒中の方への鍼治療もあります。あとは、月経に関する不調や不妊にも効果があると言われています。最近は不眠症など自律神経系の不調を訴える方も多いですね。
西洋医学だけでは対応できない不調が現代人に増えています。この分野に対する鍼灸の必要性は高まっていると感じています。
重国)それぞれの国家資格の特性がわかってきました。それをお一人で完結できるというのが、私もセラピストとして魅力的に感じます。
奥田さんが一人の患者さんを施術する際に、3つの国家資格の知識、技術をどのように使い分けて、また融合させているのか教えて下さい。
奥田さん)初めて診る方は、まず緊急度を把握しますが、これは柔道整復師としての評価技能だと思います。先ほどお話しした通り、何か手術を受けている方であれば、理学療法士としての経験をフル活用します。その後は、姿勢や動作を理学療法士の視点でチェックして、症状に応じて柔道整復師、鍼灸師としてのアプローチを選択していくイメージでしょうか。施術後に自宅で行ってもらう自主トレーニングを指導することがありますが、それは理学療法士としての知識を使うことが多いです。
重国)本当に多角的に患者さんに携わっているのが伝わります!トリプルライセンスだからこそ西洋医学と東洋医学をいったりきたりしながら、あらゆる不調にアプローチできるのですね。
重国)最後に今後の展望を教えて下さい。
奥田さん)最近、高圧酸素ROOMを導入しました。是非あとで重国さんも入ってみて下さい!笑
高圧酸素ROOMに入ると、呼吸によって取り込む以上に酸素を取り入れることができます。体内に隅々まで酸素を取り入れることができるので、仕事後に体をケアしたい方にももちろんですし、アスリートのコンディショニングをサポートできるものです。
現在、リトルシニア野球(中学生)のチームをサポートしていて、これから月に一回、グラウンドに出向いてトレーニング指導や怪我の予防に携わることになっています。
適度なスポーツは体に良いですが、競技となると怪我も多い。怪我によってスポーツを諦めてしまう人を減らしたいですし、生涯にわたってスポーツを楽しめる支援をもっとしていきたいと考えています。
重国)本日は貴重なお話しありがとうございました!
私も疲れが取れない年齢になってきましたので、後ほど高圧酸素ROOM体験させて下さい!笑
インタビュー後、高圧酸素ROOMを40分間も体験させて頂くことに。中は175㎝の私が横になって悠々と足を伸ばせるスペースがあります。親子で入る方もいらっしゃるそうです。エアコンも完備されていて快適。リラックスして熟睡してしまいました。起きると頭がスッキリで体が軽い!私は寝てしまいましたが、高圧酸素ROOMの中で、深呼吸しながらストレッチやマッサージをすればさらに疲労回復が図れると思います。皆さんも是非、体験してみて下さい!
今回、お話をうかがって、改めてライセンスを複数持つというキャリアアップの可能性を感じました。特に、治療だけでなく、経営方針なども自身で判断して実行できる裁量の多さに、正直うらやましく思ってしまいました。
そして、コロナ禍などを経験している私たちは、常に「何が起きるかわからない」ということを、身をもって再認識させられています。
世の中の経済状況も目まぐるしく変化する中、「組織にいれば安心なのか、自分の腕で生き抜くか。」
どちらかに賭けるのではなく、常に両方に選択肢がある状態が最もたくましいように感じました。
■真栄接骨院
〒179-0071 東京都練馬区旭町3丁目32-19
ホームページはこちら
営業時間 平日9:00~12:00 15:00〜20:00 土曜日9:00〜16:00 日曜日9:00〜12:00
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1980年生まれ。理学療法士。早稲田大学スポーツ科学研究科 スポーツ科学修士課程 修了。東京保健医療専門職大学 専任教員。十条かねたか整形外科で非常勤勤務。2021年外出や旅行を楽しむための身体づくりをサポートするトレーニング・コンディショニング事業「グッドレッグ」を起業。臨床・教育・研究・個人事業に携わりながらセラピストの新たな可能性を模索している。webマガジン「C」編集長。
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