運動は嫌いだけど健康になりたい人向けに、超低ハードルのトレーニング漫画(以下、ゆるトレ漫画)を週に1度Twitterで発信する漫画家・イラストレーターのいしかわひろこさん。 【画像】呼吸筋をほぐす「深呼吸ストレッチ」のやり方 読者からは「職場で気軽に試せる」「運動音痴でも挑戦しやすい」と話題です。ゆるトレ漫画を描いたきっかけや産後に感じた体の変化、ボディメイクとは異なる体への気づきについて伺います。
『筋肉ゼロでもできるズボラゆるトレ』より。
――SNSで発信されているゆるトレ漫画、とても人気ですね。執筆のきっかけを教えてください。 いしかわ イラストレーターとして活動していて、ゆくゆくは漫画も描きたいなと思っていたんです。それでポートフォリオに作品を追加するために、2019年にスクワットのエッセイ漫画を描いてTwitterにアップしました。そうしたらその漫画が4.5万「いいね」という大きな反響をいただいたんです。 昔から自分の体に悩みが多かったから、「ゆるトレ」は私にとっても関心の高い題材でした。子どもの頃からお絵描きや裁縫、レース編み、ゲームなどのちまちました作業が好きで、運動は嫌い。小学2年生の頃から肩こりの自覚があって、吐いてしまうほどでした。「自分の体はなんてポンコツなんだろう」とよく感じていましたね。 一方、私の母は昔からストレッチとかツボ押しとか、体にまつわるいろんな知識を蓄えるのが好きな人です。体への関心が高い家庭環境で育ったから、「体調が悪い時はこのツボを押す」といった豆知識で体の不調をやりくりしながら暮らしていました。子どもの頃は、周りの人たちも同じように自分の体の不調をツボ押しなどで紛らわせて生活しているんだと思っていたんですよ。
――小学生の頃から肩こりを感じたり、ツボ押しをしたり。私にはあまりなかった体験です。 いしかわ そうなんですよね。大人になってから、「周りの人はそうじゃないんや!」と気が付きました(笑)。 それに、体に対して大きく意識が変わったのが出産の体験です。もともと私は小食で、やりたいことがあると集中しすぎて食事を忘れるくらい、食べ物に執着がないタイプでした。でも、妊娠して出産、母乳育児を始めたら、「ご飯を食べたい」という強烈な食欲が初めてわいたんです。
そうしたら、すごく苦しくなってしまって。元々食べた分だけ体につきやすい体質に加えて、出産して減った体重はたった3kg。お腹もぺしゃんこに戻ると思っていたのに、まだお腹に入っているのかと思うくらい出っぱったままでした。それに、「産後ダイエットは6カ月が勝負」といった根拠のない情報を鵜呑みにしてしまって。出産したら妊娠前の元の体に戻れると思っていたのに、想像とは全くちがっていて、それで一気に不安にかられたんです。 だから食欲はすごくあるけど、「食べたら戻れなくなる」と心にブレーキをかけて、理性で食欲をコントロールし始めました。体形を戻すために急いで頑張らないと、と焦って産後3カ月くらいから運動も始めたんです。 ――母乳育児ってめちゃくちゃお腹が減るし、産後は、まだ体があちこち痛みますよね。 いしかわ そうなんです。でも、妊娠前と体形が違うっていうのが、自分の中ですごく不安で。何より、それまで食欲が爆発した経験がなかったから、変化が怖かったんですよね。これは自力でなんとかしなきゃと思って。筋トレをしたり、食欲をコントロールして脂質の摂取を控えたり。人生で初めてダイエットしたんです。そうしたらなんとか産後1年で妊娠前より1キロ減りました。 でも、そこから過食が始まって。結局、妊娠ピークの頃の体重までリバウンドしたんです。「食事を我慢しても食欲が爆発して、ものすごく食べてしまう」「食べたら運動しないと不安になる」を繰り返して。メンタルも体もボロボロになっていきました。 ――産後にその体験は、かなりハードですね……。 いしかわ 必死だったんです。ボロボロになった時にふと、「細くてきれい」というボディメイクに意識が先行していたけど、子育てでは「健康で丈夫で、へこたれない体」の方が大事なんじゃないか、と思いました。体に対しての認識が「外側をきれいに見せるためのもの」から、「子どもを育てながら、日々を生きていくための乗り物」に変わったというか。見た目がどうとかじゃなく、しっかり走れる体にしないとという意識に変わったんです。 そこから、「自分の体とちゃんと向き合っていこう」と思えましたね。食べたいと思うだけ食べて、心地よいと思える運動をする。「体重が増えようが増えまいが、自分のアイデンティティは変わらない」。そう思えるようになって、体重計を捨てました。そうやって自分の心と体のバランスがとれるようになったのは、子どもが2歳になる頃でしたね。
――その体験があってのゆるトレ漫画の発信なんですね。 いしかわ そうです。それまで「スクワット15回を3セット」とダイエット本などに書かれていたらその通りにやって、でも結果に結びつかないと「きれいになれないならやっても意味ないじゃん」と思い詰めていました。それが、「体が気持ちいいと感じるなら、10回でもいいからやってみよう」「ぽかぽかと体が温まるから続けてみよう」、逆に「これ以上やるとしんどくなるからやめよう」とか、自分の体が心地よく動くことに意識を変えていったんです。 ――大きな変化ですね。現在、漫画を発信する時にも、そういうことを意識しているんですか? いしかわ そうですね。発信する時には自分で効果を実感したものしか描かないようにしています。 普段からどういう風に筋肉が動くかをよく観察していて、リハビリテーションの本などから、体を動かせない人がどんな訓練をしているかなどの勉強をしているんです。それに、仲の良い理学療法士の方に相談して、「リハビリとかトレーニングの指導をする時はこういう動きを取り入れているよ」とアドバイスをもらったりしています。 でも、教えてもらうトレーニング法の中には、実際にやってみると難しいものや、コツが分かりづらい動作もあるので、そういうのは人に伝えにくいな、と。体が変わった実感のある方法を、「これめっちゃよかったよ」と友達にシェアするような気持ちで描くようにしています。 いしかわひろこ 1986年大阪生まれ。愛知県名古屋市在住で、夫と小学生の息子と3人暮らし。京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)卒業。SNSで「運動は大きらいだけど健康になりたい人」に向けた超ゆるエクササイズ漫画を投稿する。著書に『筋肉ゼロでもできるズボラゆるトレ』(KADOKAWA)、『オトナのがんばらない健康生活』(秋田書店)。
引用:CREA
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